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郁と悠(もうひとつの物語)
第3章 葛藤
「やだっ!変態、触らないで!」
「…郁だって、変態じゃないか!」
僕は思わず、叫んでいました。郁は目に涙を溜めていました。

「ごめん、郁…言い過ぎた」
郁の顔を見て、僕は我に返りました。しかし、郁はまだ僕を睨んで涙を流していました。

「もう、悠のところへ行くから…」
郁はそう言って、服を着ると家を飛び出しました。僕は追いかけましたが、郁は通りがかったタクシーに飛び乗ると、その夜は帰って来ませんでした。

郁は電話にもメールにも返事をしません。僕は諦めて、ひとりマンションに戻りました。

翌日、僕はそのまま仕事に行きました。郁もパートの筈でした。僕は外回りの合間、デパートに向かいました。しかし、郁はいません。レジには中年の女性と、短髪の背の高い若い男がいました。僕はサンドイッチをひとつトレーに入れ、レジに向かいました。

「いらっしゃいませ」
郁の動画で聞いた、男の声でした。まだ少年のような、初々しい好青年に見えました。僕は何も言わず、無言でお金を出しました。

「ありがとうございました。また、お願いします」
男は優しい笑顔で、僕を見送ってくれました。その日、郁は音信不通でした。僕は会社に戻ると、急いで仕事を済ませました。定時になるとすぐに退社し、再びデパートに向かいました。郁はその日、パートを欠勤したようです。僕はデパート従業員入り口近くで、悠が出るのを待っていました。8時を過ぎたところで、悠がひとりで出てきました。僕は気づかれぬよう、悠の後ろをそのまま、アパートまで付いて行きました。

悠は何度か、スマホを弄っていました。そして最寄り駅に着くと、コンビニに寄ってアパートに帰りました。いかにも学生や若い人が住む、ワンルームらしき3階建てのアパートでした。悠が2階の部屋に入ると、部屋の明かりが点きました。郁はどうやら、そこには居ないようでした。僕は念のため階段を上がり、悠の部屋の郵便受けから。そっと中を伺いました。郁の気配はありませんでした。

僕のスマホに着信がありました。郁の母親からのメールでした。前夜、郁は実家に戻っていました。そして、「夫婦げんか」を反省してマンションに戻った、との連絡でした。少し心配している文面でしたので、僕はお詫びの文章を綴り、心配しないで下さいと返信しました。

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