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千一夜
第54章 第七夜 最終章 真空のゆらぎ
「これから私が話すことは、亮ちゃんが想像していることと同じよ。亮ちゃんの言う通り、私の父と母は京都で知り合ったの。警察官だった父が京都に来て、京都で働いていた母と出会った。結婚して、私たちが生まれて、それから四人で幸せに暮らして……」
京子の声がだんだん小さくなっていった。
「……」
「そんな風に時間が流れていけば、私は亮ちゃんに会うことはなかった」
「……」
「ギブアップしたのは母よ。京都から秋田に嫁いで、母はきっと寂しかったと思うの。父は公務員。でも警察官なんて家にいる時間より仕事に出ている時間の方が長いでしょ。愛し合っていても、二人が寄り添う時間がない。母は一人で悩み、父だってそのことでは苦しんだはず。だから私は父と母を責めることはできない。今はそう思えるけど、都子と離れ離れになるときは、私は父と母を許すことができなかった。あのときは私も都子も大泣きしたわ」
「君のお父さんとお母さんは離婚されたのか?」
「そう。都子の親権は父、そして私の親権は母が持つことになったわけ」
「だから君はお母さんと一緒に東京で住むことになったのか」
「そういうこと」
「どうして京都じゃなくて東京なんだ?」
「母の知り合いが東京で働いていて、母はその人を頼ったわけ。京都には戻りたくなかったんじゃないかしら」
「……」
「母が東京でどんな仕事をしていたのか、亮ちゃんは気にならないの?」
「……」
会社員でないことは確かだ。
「母の知り合いは品川でスナックを経営していたの。母はその店で働いたわ」
「……」
「お給料は悪くなかったみたい。母のお陰で私はいろいろ習い事をすることができたんだから」
「お芝居も?」
「そうよ。お芝居が一番面白かったかな」
「どうしてお芝居を続けなかったんだ?」
「続けなかったんじゃないの。続けられなかったの」
「続けられなかった……どうして?」
「……」
沈黙。
「……」
訊ねるべきではなかった。
「母に好きな人が出来たの」
「……」
もういいい、もうやめよう、私はそう言いたかった。
「私、一人ぼっちになっちゃた」
「一人ぼっち?」
「そう、一人ぼっち。母は私をアパートに置いて出て行ったわ」
「……」
涙がこぼれた。右の目から、そして左の目から。
トリコロールに京子が顔を出さなくなった理由はそれだったのだ。
「亮ちゃん、ありがとう」
京子の声がだんだん小さくなっていった。
「……」
「そんな風に時間が流れていけば、私は亮ちゃんに会うことはなかった」
「……」
「ギブアップしたのは母よ。京都から秋田に嫁いで、母はきっと寂しかったと思うの。父は公務員。でも警察官なんて家にいる時間より仕事に出ている時間の方が長いでしょ。愛し合っていても、二人が寄り添う時間がない。母は一人で悩み、父だってそのことでは苦しんだはず。だから私は父と母を責めることはできない。今はそう思えるけど、都子と離れ離れになるときは、私は父と母を許すことができなかった。あのときは私も都子も大泣きしたわ」
「君のお父さんとお母さんは離婚されたのか?」
「そう。都子の親権は父、そして私の親権は母が持つことになったわけ」
「だから君はお母さんと一緒に東京で住むことになったのか」
「そういうこと」
「どうして京都じゃなくて東京なんだ?」
「母の知り合いが東京で働いていて、母はその人を頼ったわけ。京都には戻りたくなかったんじゃないかしら」
「……」
「母が東京でどんな仕事をしていたのか、亮ちゃんは気にならないの?」
「……」
会社員でないことは確かだ。
「母の知り合いは品川でスナックを経営していたの。母はその店で働いたわ」
「……」
「お給料は悪くなかったみたい。母のお陰で私はいろいろ習い事をすることができたんだから」
「お芝居も?」
「そうよ。お芝居が一番面白かったかな」
「どうしてお芝居を続けなかったんだ?」
「続けなかったんじゃないの。続けられなかったの」
「続けられなかった……どうして?」
「……」
沈黙。
「……」
訊ねるべきではなかった。
「母に好きな人が出来たの」
「……」
もういいい、もうやめよう、私はそう言いたかった。
「私、一人ぼっちになっちゃた」
「一人ぼっち?」
「そう、一人ぼっち。母は私をアパートに置いて出て行ったわ」
「……」
涙がこぼれた。右の目から、そして左の目から。
トリコロールに京子が顔を出さなくなった理由はそれだったのだ。
「亮ちゃん、ありがとう」

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