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千一夜
第54章 第七夜 最終章 真空のゆらぎ
 こぼれた涙を元に戻すことはできない。せいぜいハンカチで濡れた頬を拭うくらい。でも私はそれすらしなかった。できなかったと言った方がいいかもしれない。衝撃は私の時間を止めた。
 母に置いてきぼりにされたことを知らずに、京子はたった一人でアパートで母の帰りを待っていたはずだ。容易に想像できる。想像はできるが、京子の気持ちに寄り添うことはできない。なぜなら私は親に置いてきぼりにされた経験がない。
 裕福な家庭ではなかったが、父も母も私を育てるために必死に働いてきた。私はそれを知っている。親が子供を捨てるなんてことあるわけがない。親は子供のために命を懸けることが出来る。親とはそう言うものだ。親はそうでなければならない。
「……」
 私は言葉を失った。
「待っても待っても母は帰ってこなかった。部屋がだんだん暗くなっていくの。それが怖いから私は部屋の灯をつけて。お風呂やトイレの灯もつけたわ。自分を慰めるために、私は無理やりこう思ったの。母はきっと迷子になったんだって。だから部屋の灯はずっとつけっぱなしにしていたの……でも母は帰ってこなかった」
「もういい、止めてくれ」
 私には京子の心の痛みを受け止めることはできない。
「二日後、父が私を迎えに来てくれた。私を抱きしめて、それから私の手を掴んで、それか父と手を繋いで私と父は秋田に向かったの」
 京子は話し続けた。
「……」
「父と都子と私三人の生活が始まったわ。元々都子とは仲が良かったし、父も何かと私のことを気にかけてくれたんで、秋田の生活にはすぐに馴染むことが出来たわ。でもそう言う私たちのささやかな生活の中に邪魔者が現れたの」
「邪魔者?」
「そう、邪魔者」
「邪魔者って誰だ? どう言う意味だ?」
「……世間」
「世間?」
「そう、世間」
「……」
「正確に言うと、世間の白い目」
「白い目……」
「私は母から捨てられた可哀そうな子、そして私を捨てた母は男とどこかに逃げた。亮ちゃん、世間の白い目って容赦ないのよ」
「……」
 京子の言いたいことはわかる。ときに世間は冷たい塊に変身する。
「私だけなら、それはそれでいいんだけど。世間の白い目は都子や父にまで遠慮なく向かっていったわ」
「……」
「私と都子は何とか支え合うことが出来た。でも父は違ったの。わかるでしょ? 亮ちゃんだって公務員だったんだから」
「……」
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