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千一夜
第54章 第七夜 最終章 真空のゆらぎ
 同じ公務員だが、やはり役所と警察では大分違う。役所はいろいろなハラスメントに対して極めて敏感だ。だが、社会の仕組みが急激に変化している時代でも、警察官は組織のために働かなければならない。そこに個人の自由な意思が入り込むすきなどないのだ。
「……」
 私は報復について考えた。
 テレビの刑事ドラマでよくあるシーン。上司が部下に対して依願退職を迫るあの場面。 
 離婚しただけで警察官失格なのか……、その先とは……。
「私のことなんかほうっておけばよかったのよ」
「えっ?」
「都子と二人だけで暮らしていれば、父も都子も苦しまずにすんだのに」
「……」
「私を引き取ったせいで父と都子の人生が狂ったの」
「一人ぼっちになった娘をそのままになんかしておけない。娘を引き取るのは父親の義務だ」
「何が義務よ!亮ちゃんには私たちの気持ちなんてわからないわよ!」
 そう言って京子は私を睨んだ。
「……」
 京子の言う通りだ。私には京子たちの苦しさなんてどれだけ時間をかけてもわからない。
「私が父と都子と暮らすようになって一週間も経たないうちに噂が広まったの。母が男を作って私を置いてきぼりにしたと言う噂」
「酷いな」
「噂はいろいろなところに流れて行ったわ。もちろん父が勤める警察署にも。そしてすぐにまた異動の辞令が父に出たの。警務課から今度は留置管理係への異動よ。嫌がらせもここまでくると見事だわ」
「留置管理係?」
「そう、留置管理係。どんな仕事にも表と裏がある。表はいつもキラキラ輝いている。でも裏には決して陽が射すことはない。刑事課から警務課、それがいきなり留置管理係だなんて。警察という組織は、遠回しに父に出て行けって言ったのよ」
「君のお父さんは優秀な方だ。警察を退職しても、他に活躍できる場所はたくさんあったんじゃないのか?」
「やっぱり亮ちゃんは何もわかっていない。警察って本当に特殊な職場よ。その特殊な職場を働き盛りの歳で辞めた人間に、次の働き場所なて簡単には見つからないわ。それに私の父は警察官であることに誇りを持っていたと思うの。警察官で終わりたい、そんな風に父は思っていたのよ」
「警察官としての誇り……」
「亮ちゃん、質問していいい?」
「ああ」
「命と警察官の誇り、どっちが重い?」
「命だ」
 私は即答した。
「でも私の父はそうは思わなかったの」
「……」
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