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千一夜
第62章 第八夜 island 満月の夜
 ふと思った。この時間はいつまで続くのだろうかと。
 子供の成長を喜ばない親はいない。良輔にも良幸にも河田のようになって欲しいと願っている。
 だが、あと数年で良輔は反抗期に入るだろうし、背の高い河田の血は二人の子供にも受け継がれているはずだ。もしかしたら子供たちが中学生になる前に、私の身長を追い越すかもしれない。
 嬉しいことなのだが、やはり寂しさも私の中にはある。子供たちの頬に私はいつまでキスができるだろうか。
 いつか良輔も良幸も「もう子供じゃないんだから、そんなのやめてくれよ。ママはモイよ」とか「あーいちいちうるさいな。まじでママはうざいよ」とか言うのだろう。
 そうだ、そのときは「ママ」とは呼ばれていないかもしれない。「お母さん」ならいいけど「くそばばぁ」と呼ばれたら、二日くらい寝込んでしまう(絶対に)。
 だから私はこの時間を大事にする。
 洗面所に行って顔を洗う。顔を洗い終わって食事が用意されている台所に入ると、河田と二人の子供たちが私を待っていた。
「ラジオ体操してお腹減ったでしょ。先に食べてていいのに」
 三人はまだ食事を始めていなかった。
「ママを待っていたんだよ」
 そう言った良幸は私の隣、テーブルを挟んで私の前には良輔が座り、斜め前には河田が座っている。
「そうなの、良幸ありがとう」
 私は良幸の頭を撫でた。
「ママ、僕にもお願いします」
「はいはい、良輔、ありがとう。あなた、ありがとう」
「よし、それじゃあ食べようか」
 河田が良輔と良幸に向かってそう言った。
 食べ始めると、良輔と良幸が私の顔をじろじろ見ている。
「どうしたの? 私の顔に何かついている?」
 私は二人にそう訊ねた。
「パパがね、さっき言ったんだよ」
「僕が言うから良幸は黙っていろよ」
「喧嘩しないの。良輔、パパが何と言ったの?」
「ママ、ききたい?」
「ええ」
「パパはこう言ったんだ『ママはいつも綺麗だ。でも一番きれいなのはお化粧していないときだ』って」
「すっぴん?」
「ママ、すっぴんて何?」
「お化粧していない人のこと」
 良幸の疑問に私が答えた。
「パパはママがだ好きなんだね。パパはママからチューしてもらった?」
「そうだよ、良輔、今思い出したよ。パパはまだママからチューしてもらってないよ。食べ終わったらパパもママからチューしてもらうよ」
「ふふふ」


 
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