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千一夜
第62章 第八夜 island 満月の夜
「僕が初めて読んだ本は、芥川竜之介の“歯車”だ」
河田がなぜそう言ったのか。時間を少し戻してみることにする。
私が止めたところで、この島を買うと言う河田の意思は変わらないだろう。○○〇が復活すれば、河田は○○〇を去る。河田は子供たちと過ごすために仕事から離れると加地や私に言った。
私は河田の決意を尊重する。世間からは成功者としてもてはやされているが、河田にだって私に言えない悩みや苦労があるに違いない。経済の天才にも休暇は必要だ。
私の心配はただ一つ。河田はこう言いだすかもしれない。
「夏休み(子供たちの)の間は、この島で暮らすことにする」
間違いなく良輔も良幸も河田の提案に満面の笑みを浮かべて「賛成」と言うだろう。家事に追われない私だって楽ができるのだが、子供たちのこと(将来のこと、つまり進学のことだ)を考えると心から喜ぶことが出来ない。
「良輔と同じ学年の人たちは、夏休みの間みんな塾に行っているのよ。それなのに良輔だけがこの島で遊ぶなんて取り返しがつかなくなるわよ。絶対にダメ。私は反対です」
「何度も言うが僕は塾に行ったことがない。良輔に塾は必要ない」
「だったらお勉強の道具をこの島に持ってくるのを許してくれる?」
「意味がないよ」
「どうして?」
「リフレッシュするためにこの島に来るんだ、島の中では遊びに夢中になればいい。遊びから学ぶものだってあるんだから」
「はぁ~、都合よすぎるわよ」
溜息が出る。この件では河田と私がかみ合うことはない。
「そうだ、本を一冊だけ持ってくる。それを良輔が読めばいい」
「本? 何の本よ? 本を読んで勉強になるの? あなたの母校に合格できるの?」
「東大なんて行かなくていいよ。良輔には良輔の人生があるんだ」
「東大を出たから言える台詞よね。一つ訊かせて、本を読んであなたは何を手に入れたの?」
「僕が初めて読んだ本は、芥川龍之介の“歯車”だ」
「“歯車”?」
「麗子は読んだことあるか?」
「ごめんなさい、読んだことはないわ。それであなたはその“歯車”をいつ読んだの?」
「小学一年の春休みだ」
「小学校一年生の春休みということは、四月からは二年生?」
「その通り」
「“歯車”は面白かった?」
「ああ」
「それって……“歯車”という小説は小学生が読むような小説なの?」
「無理だな。小学一年では読み進むことができない」
河田がなぜそう言ったのか。時間を少し戻してみることにする。
私が止めたところで、この島を買うと言う河田の意思は変わらないだろう。○○〇が復活すれば、河田は○○〇を去る。河田は子供たちと過ごすために仕事から離れると加地や私に言った。
私は河田の決意を尊重する。世間からは成功者としてもてはやされているが、河田にだって私に言えない悩みや苦労があるに違いない。経済の天才にも休暇は必要だ。
私の心配はただ一つ。河田はこう言いだすかもしれない。
「夏休み(子供たちの)の間は、この島で暮らすことにする」
間違いなく良輔も良幸も河田の提案に満面の笑みを浮かべて「賛成」と言うだろう。家事に追われない私だって楽ができるのだが、子供たちのこと(将来のこと、つまり進学のことだ)を考えると心から喜ぶことが出来ない。
「良輔と同じ学年の人たちは、夏休みの間みんな塾に行っているのよ。それなのに良輔だけがこの島で遊ぶなんて取り返しがつかなくなるわよ。絶対にダメ。私は反対です」
「何度も言うが僕は塾に行ったことがない。良輔に塾は必要ない」
「だったらお勉強の道具をこの島に持ってくるのを許してくれる?」
「意味がないよ」
「どうして?」
「リフレッシュするためにこの島に来るんだ、島の中では遊びに夢中になればいい。遊びから学ぶものだってあるんだから」
「はぁ~、都合よすぎるわよ」
溜息が出る。この件では河田と私がかみ合うことはない。
「そうだ、本を一冊だけ持ってくる。それを良輔が読めばいい」
「本? 何の本よ? 本を読んで勉強になるの? あなたの母校に合格できるの?」
「東大なんて行かなくていいよ。良輔には良輔の人生があるんだ」
「東大を出たから言える台詞よね。一つ訊かせて、本を読んであなたは何を手に入れたの?」
「僕が初めて読んだ本は、芥川龍之介の“歯車”だ」
「“歯車”?」
「麗子は読んだことあるか?」
「ごめんなさい、読んだことはないわ。それであなたはその“歯車”をいつ読んだの?」
「小学一年の春休みだ」
「小学校一年生の春休みということは、四月からは二年生?」
「その通り」
「“歯車”は面白かった?」
「ああ」
「それって……“歯車”という小説は小学生が読むような小説なの?」
「無理だな。小学一年では読み進むことができない」

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