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千一夜
第63章 第九夜 隣人たちとの狂宴
「ええと、萩原さん。萩原さんの希望だとここしかないね。でもさ、よく考えな。萩原さん、車持ってないよね。となるとさ、バスで駅に向かうしかないわけだ。確かにこのアパートの近くにバス停はあるよ。でも、バスは一日に朝と夕方のの二本だけ。それを逃すと駅まで歩くしかない。ここから駅まで七八キロはあるよ。陸上部じゃないんだからさ、こんな田舎でもそんな距離歩く奴なんかいないよ。前にさ、萩原さんみたいな人がいたわけよ。家賃に金を掛けたくない人ね。その人だって三か月でギブアップしたよ。まぁ、三か月もよく我慢できなとなと思うけどね」
「……」
六十代くらいの不動産屋の社長の言葉は僕の頭の中を素通りして行った。なぜなら僕はもう決断していた。僕はこのアパートに住む。ここから僕の独り暮らしをスタートさせると。
確かに中国地方の田舎のまた田舎のようなところだが、家賃が一万円なんて安い。いやいや、安いなんてものじゃない。僕はここに来るまで新手の詐欺なのかと真剣に思っていた。一万円で僕をつって、何だかんだで百万円位の家具を売りつけられるかもしれない……と思っていたわけだ。
「でも悪くない部屋だろ。十畳のリビングダイニングルームに六畳の洋室が二間。ここはさ、もともとファミリー向けのアパートとして建てられたんだよ。ファミリーなら車あるだろ。駅やコンビニから少し遠くてもそれはすべて車が解決してくれる。でも違ったね。車で行くのは近くのコンビニで遠くのコンビニじゃないんだよな。だからこんな辺鄙なところの築五年のアパートなんて見向きもされないんだよ。もう私らの世代じゃついていけない時代になったんだよな」
「あの、本当に礼金敷金なしの家賃一月一万円でいんですか?」
「オーナーがそれでいいって言ってんだから一万円でいいさ。あっ、そうそう、家賃が安いからってここは事故物件じゃなないからね、そこんとこ心配いらないから」
「はい」
「萩原さんはH大生?」
「はい、そうです」
「何勉強してんの?」
「教育学部で言語文化を学んでいます」
「ということは将来は先生?」
「はい、そのつもりです」
「だったらあれだね、通学に苦労するのも悪くないね。辛い思いを経験してこそ人に何かを教えることが出来るんだ。教壇に立つ人間はそうじゃないといけないよ。こんなこと言うと老害だって言われるかもしれないけどさ。ははは」
「……」
「……」
六十代くらいの不動産屋の社長の言葉は僕の頭の中を素通りして行った。なぜなら僕はもう決断していた。僕はこのアパートに住む。ここから僕の独り暮らしをスタートさせると。
確かに中国地方の田舎のまた田舎のようなところだが、家賃が一万円なんて安い。いやいや、安いなんてものじゃない。僕はここに来るまで新手の詐欺なのかと真剣に思っていた。一万円で僕をつって、何だかんだで百万円位の家具を売りつけられるかもしれない……と思っていたわけだ。
「でも悪くない部屋だろ。十畳のリビングダイニングルームに六畳の洋室が二間。ここはさ、もともとファミリー向けのアパートとして建てられたんだよ。ファミリーなら車あるだろ。駅やコンビニから少し遠くてもそれはすべて車が解決してくれる。でも違ったね。車で行くのは近くのコンビニで遠くのコンビニじゃないんだよな。だからこんな辺鄙なところの築五年のアパートなんて見向きもされないんだよ。もう私らの世代じゃついていけない時代になったんだよな」
「あの、本当に礼金敷金なしの家賃一月一万円でいんですか?」
「オーナーがそれでいいって言ってんだから一万円でいいさ。あっ、そうそう、家賃が安いからってここは事故物件じゃなないからね、そこんとこ心配いらないから」
「はい」
「萩原さんはH大生?」
「はい、そうです」
「何勉強してんの?」
「教育学部で言語文化を学んでいます」
「ということは将来は先生?」
「はい、そのつもりです」
「だったらあれだね、通学に苦労するのも悪くないね。辛い思いを経験してこそ人に何かを教えることが出来るんだ。教壇に立つ人間はそうじゃないといけないよ。こんなこと言うと老害だって言われるかもしれないけどさ。ははは」
「……」

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