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千一夜
第63章 第九夜 隣人たちとの狂宴
 高校の担任と教頭のお陰で、僕は何とかH大学に進むことが出来た。
 喜び半分、そして悔しさも半分。
 H大学に進学すれば毎朝兄嫁と顔を合わさずに済む。だが、本当に行きたかった大学は京都大学。
 僕は気持ちを切り替えることにした。
 悔しいが、兄嫁の言う通り、高校を出たばかりの僕には国立大学の学費を自分で賄うことはできない。四年間で二百五十万円(おおよそ)。その金額を萩原の家から出してもらわなければ、僕の大学生活は始まらない。
 広島に向かうとき、義姉は僕にこう言った。
「健次さん、夏休みや冬休みは萩原の仕事を手伝ってくださいね。それくらいしてもらわないと、こちらも困りますよ。お金は出せ、でも家の仕事はしないじゃ通りませんからね。まぁ、それくらいの常識、大学生ならお分かりだと思いますが」
「はい」
 僕はそう義姉に向かって返事をした。
 松山観光港には義姉以外、父と母、そして兄と弟が見送りに来てくれた。
 僕が船に乗り込もうとするとき、母が僕に近づいてきて封筒を僕に握らせた。
「これ、使いなさい。それと困ったときは私に電話すること。お金ならすぐに送るから」
「母さん、ありがとう。でもこれは必要ないよ。学費だけで十分だ、今はそれを返すことはできなけど、出してもらった学費はいつか必ず萩原の家に返す。母さん、心配なんかしなくていいからね」
 僕は母から封筒を受け取らなかった。
 H大学から合格に知らせを聞いたとき、僕に新たな目標が出来た。僕は京都大学の大学院を目指す。四年後、僕は必ず京都大学の大学院で学ぶ。
 そのためには一日も早く、経済的に自立しなければいけない。学生ではあるが、自分を支えるのは自分しかいない。学びながら働く。どちらも疎かにすることはできない。学ばなければ大学院に進めない。働かなければ(考えたくはないことだが)、また萩原の家に頭を下げなければいけない。あの能面のような義姉の顔はもう二度と見たくない。
「強くなれ、強くならなければ生きていけない。がんばれ!がんばれ健次!」
 僕は何度も何度もその言葉を心の中で繰り返した。
 駅から遠くても、近くにコンビニなんかなくても、僕の大学生生活はここから始める。
 家賃が一万円なんて、超がつくラッキーだ。神様はまだ僕を見捨てていない。不動産屋が言うように、苦労は間違いなく僕の糧になる。
 僕は運がいい。
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