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千一夜
第63章 第九夜 隣人たちとの狂宴
京都での生活が始まる。
自分で言うのも何だが、最高のスタートが切れたのではないかと思っている。
ずっと京都大学に憧れていた。京大で勉強をする。だが、広島の大学で学んだ四年が無駄だったわけではない。それどころか、こうして京都で暮らしていけるのも、その土台造りができたのは広島のお陰だ。
大学院でも僕は自分で自分で養っていかなければならない。幸いなことに、広島でお世話になった旅行会社の京都支社でも通訳として雇ってもらえた。大学受験の予備校からもオファーがあった。取り合えずこれでなんとか食べていける。
引っ越しの日、部屋のオーナーの日野さんが僕を訪ねて来た。
「どうぞよろしくお願いします」
「やっぱり京大の学生さんね。これじゃあ、部屋中本だらけになるわね」
段ボール箱につめられた本を見てオーナーがそう言った。
「すみません。なるべく本を増やさないようにします」
「ふふふ、構わないわよ。学生さんは勉強することが仕事なんだからたくさん本を読みなさい」
「ありがとうございます。あの……」
「どうしたの?」
「オーナーさんのことをどう呼べばいいでしょうか?」
「私の名前は日野順子。好きなように呼んでもらって結構よ。ただし、クソババァは勘弁して」
「日野さんはクソババァじゃないと思います。お若いし……それにとても綺麗です」
「ふふふ、ありがとう。夕方隣の店にいらっしゃい。引っ越し祝いに私の店のおばんざいを御馳走するわ」
「いいんですか?」
「萩原さん、あなた普段何を食べてるの?」
「広島では、学食とコンビニ弁当でした」
「それだけ? 自分で作ったりしないの?」
「カップラーメンは作りますね」
「あのね、カップラーメンは作るとは言わないの。あれはお湯を入れるだけ。お母さんが心配するわよ」
「……」
母のことを持ち出されると、僕は何も言えない。
「六時ころ来なさい。今日のお客さんは七時から五人だけだから」
「あの……お店のおばんざいは……」
「今日はお一人三万円のコースよ。もちろんお飲み物は別」
「……」
心の中で「三万円!」と思わず叫んだ。手が出ない。
「六時よ。間違わないでね」
「はい。今日は外国の方はいらっしゃるんですか?」
「その予定はないわ」
「わかりました」
「萩原君に紹介したい人もいるから」
「紹介したい人?」
「それじゃあ」
「失礼します」
自分で言うのも何だが、最高のスタートが切れたのではないかと思っている。
ずっと京都大学に憧れていた。京大で勉強をする。だが、広島の大学で学んだ四年が無駄だったわけではない。それどころか、こうして京都で暮らしていけるのも、その土台造りができたのは広島のお陰だ。
大学院でも僕は自分で自分で養っていかなければならない。幸いなことに、広島でお世話になった旅行会社の京都支社でも通訳として雇ってもらえた。大学受験の予備校からもオファーがあった。取り合えずこれでなんとか食べていける。
引っ越しの日、部屋のオーナーの日野さんが僕を訪ねて来た。
「どうぞよろしくお願いします」
「やっぱり京大の学生さんね。これじゃあ、部屋中本だらけになるわね」
段ボール箱につめられた本を見てオーナーがそう言った。
「すみません。なるべく本を増やさないようにします」
「ふふふ、構わないわよ。学生さんは勉強することが仕事なんだからたくさん本を読みなさい」
「ありがとうございます。あの……」
「どうしたの?」
「オーナーさんのことをどう呼べばいいでしょうか?」
「私の名前は日野順子。好きなように呼んでもらって結構よ。ただし、クソババァは勘弁して」
「日野さんはクソババァじゃないと思います。お若いし……それにとても綺麗です」
「ふふふ、ありがとう。夕方隣の店にいらっしゃい。引っ越し祝いに私の店のおばんざいを御馳走するわ」
「いいんですか?」
「萩原さん、あなた普段何を食べてるの?」
「広島では、学食とコンビニ弁当でした」
「それだけ? 自分で作ったりしないの?」
「カップラーメンは作りますね」
「あのね、カップラーメンは作るとは言わないの。あれはお湯を入れるだけ。お母さんが心配するわよ」
「……」
母のことを持ち出されると、僕は何も言えない。
「六時ころ来なさい。今日のお客さんは七時から五人だけだから」
「あの……お店のおばんざいは……」
「今日はお一人三万円のコースよ。もちろんお飲み物は別」
「……」
心の中で「三万円!」と思わず叫んだ。手が出ない。
「六時よ。間違わないでね」
「はい。今日は外国の方はいらっしゃるんですか?」
「その予定はないわ」
「わかりました」
「萩原君に紹介したい人もいるから」
「紹介したい人?」
「それじゃあ」
「失礼します」

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