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背徳のキス
第3章 2話目
“もう二度と歌は歌わないようにしよう。
あんな風に馬鹿にされるのは懲り懲り”
止めどなく溢れてくる涙を手で拭うと、洞窟の入り口へとトボトボと進み、割れた手鏡を拾い上げた。
“鏡....割れちゃった
まあでも、いっか。最近使ってなかったし...”
シェリーは割れた手鏡を屑籠に投げ捨てようとして、キラリと光る小型の貴金属を発見する。
指輪だ。隙間無く天然ダイヤモンドが埋め込まれていて、一目で高級品と分かるプラチナリング。
シェリー自らワカメ野郎と罵ったあの人魚が彼女の脳裏に浮かぶ。
白皙の肌
エメラルドに輝く長髪
三白眼の瞳は闇夜を照らす金色
その鋭い瞳を縁取るように引かれた黒いアイライン
軽薄そうな薄い唇
黒光りした尾鰭
耳障りで下品な引き笑い
見事な悪役面だった。
”どうしよう、これ彼の落とし物?
まだ確定したわけじゃないけど、仮にそうだとしたら正直処分してしまいたい。
でも、もし探しに来たら....?
それで見つからないってなった時の方が面倒かも。あのマーマンは容赦無く私を罵倒するかもしれない。“
色々と思案した結果、彼女はホタテの貝殻が描かれた小さな巾着袋に指輪を入れて、暫く取っておく事にしたのだった。
そして、神に祈りを告げたのだ。
どうか、この指輪の落とし主が彼ではありませんように。