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官能能力者 あおい
第33章 間章:折木さんの夏休み
あまり会話のないまま、私達はコーヒーを飲み終わってしまう。
先輩に促されて、店を出る。一応、支払いは先輩が持ってくれた。

どこに行く、というのもないまま、歩き続ける先輩のあとを、ただ私は追っていく。

「折木・・・」

先輩がふと私の名前を呼ぶ。セックスのときは「すずめ」と名前で呼んでくれることもあるが、それ以外のときはほとんど名字で呼ぶ。

「なあに?」

精一杯甘えた声で応えてみる。私達はいつの間にやら公園を歩いていた。
さすがに長い夏の日も陰ってきている。街灯がちらつき始めていた。
夕暮れの公園は蚊にさされないか、ちょっと心配だ。それに、雲がだいぶ出てきている。なんとなく、雨の気配がする。

白い街灯の光の中、先輩が不意に立ち止まり、私の方を向く。

「なあ・・・折木・・・もう、やめにしないか?」

え?一瞬頭が真っ白になる。
先輩の放った言葉がよく理解できない。
いや、おそらく、私の心の奥底は、その言葉の意味するところをわかっていたのだろう。だから、全身で拒否したのかもしれない。

「こういう関係は・・・もう、やめよう」

重ねて言う。
やめる?何を?

私達、始まってもいないじゃない・・・。

足が地面に縫い付けられたように動かない。
声を出そうにも、喉がカラカラに乾いて、うまく言葉が出てこない。
先輩が私から目をそらす。

「俺にはお前が何考えているのかがわからないんだ。掴みどころがなくて・・・それに、お前といると、まるで、自分がモノみたいに扱われているようで・・・。なんか、都合よく、セックスするだけの道具みたいに」

「ち・・ちが」

違う、と言おうとして、私は言えなかった。
違うんだ!と叫びたかったが、一方で先輩の言葉に妙に納得してしまっている自分もいた。

結局、私は何も言えないまま、佇むことしかできなかった。
先輩は、そのまま踵を返して歩いていってしまう。

行かないでよ。
こんなところに、置いて行かないで。
こんな、こんな暗い道に・・・一人で置いて行かないでよ。

いくら心で願っても、なぜだか、私はそれを口に出せなかった。
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