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ネコの運ぶ夢
第11章 消えたネコ
〜The cat disappeared into the darkness〜

雨が降って止むと、身体の周りに水蒸気がまとわりついているようで、いっそう暑く感じる。ぱたぱたと扇子であおいだとしても、生ぬるくじっとりとした空気が当たるだけだ。

暑い中歩いていると、なおさら体力が削られる気がする。
今日も、疲れた・・・。

18時過ぎ。最寄り駅から家に帰る。音子が来る前は、この道をたどる足取りはもっと重かったように思う。今は少しマシだ。以前は感じなかったが、帰って、アパートの扉を開けたときに広がる真っ黒な空虚は、知らない間に俺の心を少しずつ削っていっていたのだろうと思う。

家の下についた。3ヶ月前、音子がうずくまっていたブロック塀だ。見上げると俺の部屋の扉が見える。明かりが漏れていた。

家に明かりがあり、自分以外の誰かが呼吸をしている。それが、とても嬉しかった。

階段を登っていると、上から誰かが降りてくる。珍しいな。ここで人とすれ違うのは。お隣さんだといけないので、ちらと顔を見たが、30代くらいの知らない男性だった。この暑いのに、ネクタイこそしていないが、黒色のスーツだ。このボロアパートにはえらい場違いな雰囲気だと思った。なにかの集金というわけでもないようだし、もちろん住人でもない。

少し後ろを振り返り、見送るが、男性はそのまま街角に消えていった。

玄関扉を開こうとすると、珍しく鍵が開いている。音子は基本、昼間は自分が家にいるときでも鍵をかけている。女性一人なのだから、その方がいいに決まっている。

扉を開けると音子がダイニングのテーブルにぼんやりと座っていた。

「ただいま、音子」

声をかけるが、しばらく反応がない。4〜5秒くらいしてやっと「おかえりなさい、市ノ瀬さん」と笑顔を向けてくれたが、その笑顔がなんとなくぎこちないように感じた。

なにか、あったのか?
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