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ネコの運ぶ夢
第11章 消えたネコ
「どうした?具合が悪いのか?」

尋ねるが、ぶんぶんと頭を振る。「あ、お夕飯、準備するね」そのまま台所に立って準備に取り掛かってしまったので、その話題はなんとなく流れてしまった。

やっぱり様子がおかしいな。

ただ、まあ、例のお仕事見学の日から数日間は、帰ってくるなりくんくんワイシャツの匂いを嗅がれていた。そんな日々よりはいいかもしれない。
幸いなことに数日で音子のくんくんブームが去ったようで、ここ2週間位は匂われることもなかった。

今日の夕食は、

鶏肉とパプリカの黒酢炒め
きのこの中華スープ
ごはん
箸休めにザーサイ

だった。中華か、珍しい。

「いただきます」と、箸を進めるが、やはり何か音子が精彩を欠いている。一応「今日、お仕事はいかがでしたか?」とか「昼間にすずめが飛んできてー」とか、割とどうでもいいことについて話をする。これはいつものことだ。でも、どこか、心ここにあらずといった様子だった。

とはいうものの、さっきも言いたくなさそうだったし、少しそっとしておくしかないだろうか。音子も大人だし、秘密のひとつやふたつあっても不思議ではない。

と、いうか、俺は音子の何を知ってるんだろう。
どこから来て、これまで何をしてて、家族はいるのかいないのか、年齢すらわからない。全部が謎だ。
音子が話したがらないことをあれこれ詮索するのはいけない気がするが、こうして悩んでいる様子を見ると、何も知らないことで、何もできない自分がもどかしい。

食事が終わり、音子が片付けをする。俺はテレビを見ながら横目でその様子をうかがう。本当に不思議な子だし、不思議な関係だ。

家族ではない、恋人でもない、本当に拾ってきた猫と飼い主のようだ。

食事の片付けが終わればあとは特にすることはない。音子が変なことを言い出さない限り、シャワーを浴びたり、テレビを見たり、トランプゲームをしたり、読めていない新聞を読んだりして、就寝時間になったら寝る、というのが大体いつものパターンだ。
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