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トライ アゲイン
第8章 安祐美の母
『俺のことは心配しなくていいですって?!
ふん!誰があんたの心配なんかしてやるもんでさか!』
シャワーで汗を流して
メイクをやり直すと、その足で由美子は安祐美が入院している病院に向かった。
安祐美さえ目覚めてくれさえすれば、
再び安穏な生活が戻ってくる気がした。
軽くファーストフードで空腹を満たすと
急ぎ足で病室に飛び込んだ。
「あら?」
一瞬、病室を間違えたのかと思った。
なぜならそこにはベッドが二つ並んでいたからだ。
しかし、一つのベッドには安祐美が寝ている。
誰か別の患者が入院するのだろうか?
いや、そんなはずはない。
ここは個室なのだから…
由美子が戸惑っていると「お早いお戻りですね」と
梨田の声がした。
「あ、梨田さん。どういうわけかベッドが増えているんです」
疑問に思ったことを彼に話してみた。
「ああ、このベッドね…
いや、いくら帰宅を促してもお母さんがなかなか帰りたがらないので、あなた用のベッドを用意させてもらいました」
「えっ?私のためのベッド?」
「うちの病院は今でこそ完全看護で付き添いは必要ないんですけど、一昔前までは身内の方に看護の付き添いをお願いしていたんですよ
このベッドはその時の名残でしてね
いや、倉庫に眠っていた中古品ですから寝心地はよくないですけど、差額無しで使用していただいてかまいませんよ」
梨田の優しさが由美子の心の中に侵食し始めた。
「ありがとう…私のために、嬉しいわ…」
誰かに見られでもしたら大事(おおごと)になると言うのに、かまわずに由美子は梨田に抱きついた。