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彼女はボクに発情しない
第12章 夏の初めの多重旋律
幼馴染って、ずるいな・・・。

スタート地点が違う。共有している事柄の数も、積み重ねた時間も。
私の知らない高山くんを四宮さんはたくさん知っている。
その事実だけで、私の胸は灼けつくように痛んだ。

きっと、これを世の人は”嫉妬”と呼ぶのだろう。

私が一生懸命伝えた言葉が一瞬で吹き飛んでしまうほどの絆があるとしたら、私に勝ち目なんてあるんだろうか?

昨日、ルリに話を聞いてもらった。ルリは私に味方してくれて『高山!ひどい!!』と言ってくれた。振られたけど、まだ諦められない気持ちも分かってくれた。それで、結構救われた。

靴を履き替え、もう一つため息をつく。

学校の外、まだ昼前で、雲ひとつない真っ青な空が広がっている。世界はあんなに輝いているのに、私のいる場所は、この昇降口のように薄暗い。

あの明るい空の下に出るのに躊躇する。私にはあまりにもふわさしくない世界のように思ってしまう。

「優子!一緒に帰ろ!」

ぽんと背中を叩かれた。ルリだ。
あれ?先に帰ったはずじゃ?

振り返ると、ショートボブのルリが肩に鞄を引っ提げて『ニッ』と笑っていた。ルリはよく笑う。私はこの笑顔が好きだった。

「大丈夫!優子は可愛いんだから!おっぱいも大きいし」

ルリには私が何を考えているか分かってしまっているようだった。でも、おっぱい大きい、はちょっと余計かな。
私の返事を待たずにルリが手を引く。

あっという間に私は光の溢れる世界に連れ出された。

眩しい。

「またさ、デート誘ったらいいじゃん。1回で落ちなきゃ何度でもさ。」
簡単に言うなー。

明るい陽光と、太陽のようなルリの優しさが、私の心を暖かくする。
なんだか、頑張れそうな気がしてきた。

ああ、高校2年生の人生で一度しかない夏が、始まる。
ルリに引きずられるように走りながら、私はいつしか、笑っていた。
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