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彼女はボクに発情しない
第19章 キスに焦がれる輪唱曲
ちなみにこの映画館は地上17階にあるので、全面ガラス張りのこの空間はとっても眺めが良い。外は真っ青な空に真白な入道雲がもくもくと立ち上がっている。そのコントラストが夏っぽくて素敵だ。

横並びに座ると、彼女が少しボクの方に寄ってくる。優子の体温がTシャツ越しに伝わってくる。ほのかに花のような香りがしている。

「今日は・・・来てくれて、ありがとう。嬉しかった・・・。」
そして、そのままコトンと、ボクの肩に頭を乗せる。

ち・・・近い・・・。

振り払うわけにも行かず、かといって抱き寄せるというのもできず、ボクはまるで石像のように硬直していた。

「あ・・・ご・・・ごめん。この間は、その・・・急用で・・・」
花火大会のこと、ずっと気になっていた。
奏が大事だ。でも、あれはやっぱりひどかった。

「うううん。大丈夫。よほど気にしてくれてたんだね。二回目だよ。謝るの」
そ・・・そうだっけか?

「陽太くん・・・」
名を呼ばれて、ふと優子の方を見ると、思ったより近くに艶っぽい目で見つめる彼女の顔があった。唇がつやつやしてて、とても色っぽい。

心臓が、ドキドキする。
優子から立ち上ってくる女の子の匂いで頭がくらくらする。

よ・う・た・く・ん

ゆっくりと囁くようにボクの名を呼ぶ。可愛らしいピンクの唇がそっと動く。
そして、心なしか、少し顔が近づいてきたように感じた。

柔らかそうな唇。
優しい香り。
いつの間にか、彼女の温かい手がボクの手に重なっていた。

あの花火大会の夜と同じだ。彼女といると、まるで、魔法にかかったように頭がふわふわする。彼女の唇から目が離せない。

す・き・・・・

唇だけが動いた。音はなかったのに、確かに「好き」と言ったように思えた。
胸がどきんとする。まるで吸い込まれるように、ボクは身体を傾けていく。

このまま・・・キス・・・したい・・・。
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