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彼女はボクに発情しない
第5章 保健室のブルース
【Nurse's Room Blues】

やばい・・・風邪引いたかも。
『夏風邪はバカがひく』と誰かが言っていた気がする。

今のボクはまさにその典型だろう。昨日、30分以上にわたって自らの煩悩を追い払うための『水垢離』をしたため、その後、何だか身体がだる重い。今朝起きたら身体がふらつき、めまいがした。

しかし、ボクは休むわけにはいかなかった。奏がいる。
ボクと奏は地元公立高校2年B組、奇しくも同じクラスだ。

一応この高校に入った経緯を説明しよう。端的に言えば、『奏に強要された』というか、ボク自身も奏が心配だったので、『無理やり入った』というのが真相だ。
本当は奏の両親は彼女を女子校に入れようとしたのだが、奏自身が「女子校にも男の先生はいる」「もし陽太がいないところで発情したらと思うと怖い」と言って強固に反対したのだ。そして彼女はこの高校を選んだ。ボクらの通う高校は地区で2番目に偏差値が高い。

奏にはレベルが低めで、ボクにとっては死ぬほど高めだった。だからボクは『強要され』『無理やり入った』というわけだ。

中学受験のときは今思い出しても身震いがするほどの奏の「しごき」があった。

『今日中にこの英単語帳、20ページ覚えろ!』
『数学基礎練、10ページ1時間以内集中!!!」
『なぜ!?なんでこの年号が覚えられないの!大声で10回言え!』
『日本人のくせに何故!なにゆえ現代国語で減点される!?』

実力テストの前は数日間徹夜を強いられることもあった。
辛かった。泣きたくなった。実際、泣いた。

ただ、今から思い返してみれば奏自身もボクと一緒に徹夜してくれていたのだし、彼女も相当無理していたと思う。彼女としては、自分の身の安全のため、なにがなんでもボクを自分と同じ高校に入れないわけにはいかなかった、というだけだろうが、あんなに熱心になってくれたということはボクにとって、ちょっと嬉しいことでもあった。

あの熱血指導のお陰で、今のボクがある。身分不相応なこの高校に通うことが出来ているのだ。
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