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彼女はボクに発情しない
第20章 三日月が導く静かなる助奏
☆☆☆
奏と玄関で分かれて、部屋で一人、ボクは先程の彼女へのキスを思い出していた。
ころりとベッドで寝返りをうつと、窓の外に夜空が見えた。
ああ、今日は三日月だったな・・・。

知らなかった。奏が自分のことを重荷になっていると思っていたなんて。
そして、あんなに完璧な人間なんていないというほど何でもできるのに、自分のことをダメだなんて思っているなんて。

小さい頃から、奏は何でもできて、親や先生にも評判が良くて、キレイでかっこよくて、ボクはただただ、奏の後を追い回していた。

いつも、すごいと思っていた。本当に、憧れていた。
ただ、PIHだけが、奏を悩ませていると思いこんでいた。

でも、今日の奏の様子を見て、ボクの見ていたのは本当に奏の一部だったんだということ
がわかった。奏にも自信がないときがあるし、落ち込むことだってある。
自分が人に迷惑をかけていると苦しむこともあるんだ。

そして、あんなふうに震えて泣きじゃくる奏を見たのは初めてだった。知らない男の人にキスをしたときも大泣きしていたが、あのときとは違う。

なんだろう、変な言い方かもしれないけど、奏の弱いところを見た、と思った。そして、いけないことかもしれないけど、それを愛おしいと思ってしまった。

いつもボクが奏にできることなんて何もない、と思っていたけど、あんな風な泣き顔を見せられたら、本当に抱きしめて、守ってあげたくなる。大丈夫だよと、ずっとそばにいるよと言いたくなった。

それが、あのキスだった。
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