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彼女はボクに発情しない
第25章 波乱の奇想曲
☆☆☆
陽太はいつもより距離を取って私についてこざるを得ないと言っていた。それに、この間の優子ちゃんとの一件もある。だから注意しなければいけない、と思っていた。

しかし、そう思っていたにも関わらず、駅を出てしばらく歩いているとき、お兄ちゃんの言っていたPIHの治療法というワードが頭をかすめ、考え込んでしまった。
本当に治療できるの?もし、そうなら・・・
一瞬ぼけっとしてしまい、は!いけない、と思い直し、気を引き締めたちょうどその時、向こうから、部活かなんかだろうか?2列の隊列を組み、駆け足をしている男性集団が来るのに気づいた。

あーあぶなかった。あんな集団と無防備にすれ違ったら、発情してしまうかもしれない。
私はすいっと、すれ違う寸前で公園に逃げ込む。
この公園は、うちの近くにある、ちょっと大きめの公園だ。おそらくさきほどの集団も、この公園の周囲をジョギングしているのだろう。

公園に入り、遠目にジョギング集団が過ぎ去るのを確認し、ほっと一安心だ。まあ、よく考えれば、このまま公園を突っ切っても家には帰れるので、こちらから今日は行ってしまおうか。

私は木々が生い茂る公園を抜け、家を目指す。時刻はまだ、4時をすぎたばかりで明るいので問題はないと思ってしまった。

ふと見ると、前方の樹の近くに女性が一人立っているのが見えた。何しているんだろう?と不思議に思ったが、女性だというので安心してしまった。

後から考えれば、この時点で私はいろいろ、判断ミスを犯していた。

公園に入ったことで、陽太が私を見失う要因になってしまった。
そして、女性が立っている時、男性がいる可能性を考えなかった。

通り過ぎようとして、何気なく見ると、その女性は彼氏と思しき人と熱烈な抱擁をしていたのである。彼氏の方は木の陰で見えなかったのだ。

しまった・・・。

そう思った瞬間、私の鼻腔をかすかにかすめるほのかな匂い。
一瞬で胸が高鳴る。

目の前がさっと朱に染まり、手足がぼわわと熱くなった。

そう・・・私は、まんまと『発情』してしまったのである。
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