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彼女はボクに発情しない
第26章 狂おしき愛の追想曲
【The cannon of crazy love】

奏は天使だ。
天使の『よう』だ、ではない。天使だ。

奏を初めて目にした日のことは生涯忘れない。

小学校2年生の僕は今度生まれてくる妹か弟を正直疎んじていた。それもそうだろう。7年間も、この家にある愛は僕が独り占めしていたのだ。それを今更あとからのこのこやってきたやつに奪われるのは我慢がならなかった。

その日、母が退院してくるというのは知っていた。1週間前には父から「お前に妹ができたぞ」と聞いていたし、何度か、病院に行こうと誘われていた。だが、僕は「読みたい本がある」「宿題がある」などと言って頑なに行かなかった。それは、ささやかな抵抗だった。

母が、帰ってきた。玄関口から父と一緒に入ってきたのは気配でわかった。父が二階にいる僕に声をかける。
「響〜お前の妹だぞ〜」
何度も、何度も呼ぶので、仕方なく、リビングに降りていった。
そこには、何日も前から父がベビーベッドを設えていた。正直、僕の遊び場が減るし、邪魔だと思っていたのだが、そこに、『僕の妹』とやらは寝かされているらしい。

「ほら、見て、響。あなたの妹よ」
母がベビーベッドのそばで手招きする。これで行かなければあまりにも大人げないと思い、しょうがなく、ベッドを覗き込んだ。

その瞬間、僕は脳髄まで痺れた。雷に打たれたような気持ちになったのだ。

柔らかそうな髪
ぷっくりしたほっぺた
可愛らしい口もとがもぐもぐと小さくうごいている

あまりにも小さい手
閉じたまぶたの愛らしさ

全身に鳥肌が立つ。
僕の世界が、光り輝いた。

天使が、そこに眠っていたのだ。
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