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彼女はボクに発情しない
第26章 狂おしき愛の追想曲
後ろから声がした。この声は・・・。
恐る恐る振り返ると、僕が385番目に好きな服を着た奏が立っていた。
目を見開き、右の瞳から涙がこぼれていた。

涙は太陽に照らされ、ダイヤモンドのように輝いていた。そのまますーっと顎まで滑り、地面にぽたりと落ちた。

「もう・・・もう・・・やめて」
ついで左の目から、そして、また右の目から。あふれた涙が止まらない。

ガクガクと足が震える、僕は金属バッドを取り落とし、後ずさった。

「みんなに、迷惑かけないでって・・・言ったのに・・・。」
「ち・・・ちがう・・・違うんだ!奏」

誤解しないでくれ、僕は、僕はお前のために、お前だけのために!!!
思ったが、声が震えていた。僕の心はとっくにわかっていたのだ。奏は・・・怒っている。

「やめて!!」

これまで聞いたことがない奏の叫び。僕は心臓が止まるかと思った。
「もうやめて、そんなこと・・・そんなこといつまでも繰り返すなら・・・奏・・奏・・・」

ああ・・・やめてくれ・・・やめてくれ奏・・・ごめん・・・ごめんよ、兄ちゃんが悪かった。もうしない・・・もうしないから・・・お願いだから、後生だから・・・・

ああ・・・神様!神様!!
もし、あなたを罵倒した僕が、あなたに祈ることが許されるなら、今祈らせてください。お願いです。今、奏が言おうとしていることを、言わせないでください。

慈悲を・・・御慈悲を!!!

「奏・・・もう、お兄ちゃんと、一生、口利かないから!!!」

その言葉が脳髄に届く前に、僕の心の安全装置が働いたようだ。僕は、あっさりと意識を手放した。
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