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彼女はボクに発情しない
第28章 組曲:月下の夢 ”朱い月”
☆☆☆
何がきっかけかわからないが、ここ最近、これまでにない頻度で私は『発情』するようになってしまった。

そして、発情してから、身体や意識の自由が効かなくなるまでのスピードが日増しに早まっていってるのも分かった。

ついに、ここ数日は、外出すれば100%の確率で発情するようになっていた。

そして、先日、学校で発情してしまったのがダメ押しだった。陽太は最後まで私を家まで送り届けてくれたし、大丈夫と請け合ってくれた。
でも、私の心がもう、限界だった。

あっという間に自分が自分ではなくなり、そうなれば躊躇なく恐ろしく淫靡な姿を衆目にさらしてしまう危険がある。たった一瞬の油断で、貞操どころか、人生そのものが破壊されてしまうかもしれない。

薄暗い部屋の中、膝を抱えてうずくまる。
怖くて、怖くて仕方がない。
ずっとこのままの姿勢で震え続け、疲れて眠り、目を覚ましてはまた震えていた。

母が部屋をノックして、時折食事を差し入れてくれる。
かろうじて、トイレなどで外に出る。それすら、苦痛だった。

こんな状態で何日経っただろうか?
部屋をノックする音がした。

いつものノックと違う。
母じゃない。

「奏・・・」

この声・・・陽太?
身体を引きずるようにして扉に近づく。でも、やはり開けることはできなかった。
私が扉のそばに来た気配は伝わったのだろう。扉の向こうの陽太が声を上げる。

「いいよ、無理しなくて。そのままで大丈夫」

多分、陽太は扉に背中を預けている。
私も同じように扉に背中を預ける。

扉越しに、背と背を合わせていた。

「奏・・・大丈夫・・・、じゃないよな?」
「うん」
心配してくれている。それだけで、涙がこぼれそうになる。
「学校でも、みんな、心配していたよ。先生が、奏は病気で、しばらく学校に来られないって皆に説明していた。」
「うん・・・」
多分、両親がそう伝えてくれたのだろう。
「昨日さ、響と話をしたんだ」
「うん・・・」
「イギリスに行けば、奏のPIHを治せるかもしれないって」
「うん・・・」
そう、それは、私も聞いていた。
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