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彼女はボクに発情しない
第28章 組曲:月下の夢 ”朱い月”
ウソダ・・・。

私は扉の前で立ち尽くす。足が、廊下に張り付いたように動かない。
心音が、耳元でうるさいくらいに打っている。

「えー!何、何?優子ちゃんと付き合うってわけ?そりゃ無理っしょ」
「ばっかだなー・・・、ここだけの話だけど、ボク、告白されたんだぜ!」
「げー!!うっそ!」
「マジかよ」
男子たちがざわつく。

ナンデ?・・・ウソダヨネ?

「ちょうど、奏が休んだじゃん?それで、デートしてさ・・・」
「えー!!!キスしたぁ!?」
「そうなんだよ!そしたら、優子ちゃんが教えてくれたんだよね・・・、優子ちゃんと奏でって『どっちが先にボクとキスするか』で競ってたってさ。いやあ~モテモテなわけよ、ボクってば」
ぐおー!羨ましいぞー
死ね〜
などと口々に言う男子。彼らとじゃれているらしい陽太が、やめてやめてと笑いながら言っている。

全てが、遠い国の出来事のようだ。
まるで、現実感がない。

「奏ってば、ボクに選んでもらえるって思ってたんだろうけど・・・やっぱ優子ちゃんだよね〜。幼馴染ってだけだもんね〜」
ははは、と笑う陽太の声が頭の中でぐるぐると響く。

モウ・・・ヤメテ・・・。
ワカッタカラ・・・ワカッタカラ・・・。

最初から、夢なんて見なきゃよかった。
そうだ・・・そうだよ。こんな淫乱女、好かれるわけなかったんだ。

愛される、わけなかったんだ・・・。

どこをどう歩いたのか、記憶がないまま、歩いていたらしい。
いつの間にか、私は家についていた。
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