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彼女はボクに発情しない
第29章 組曲:月下の夢 ”北極星”
ダメ押しで、空港に妹と優子ちゃんと見送りに行った。優子には、わざと「付き合い始めで距離がちょっと近いカップル」といった具合の距離感を出すようにお願いしておいた。
肩がたまに触れたり、手の甲が触れ合って少し恥ずかしそうにするなど、優子も十分に芝居をしてくれた。

風香はこの計画のことを知らない。優子のことは、学校で奏の一番の友だちだから、と言っておいた。そんなわけで、ボクらはできるだけ風香の死角で、微妙な身体接触を奏に見せつける必要があった。

奏の引きつった笑顔、重い足取りを見るに、多分、これも効果は十分だったと思う。

それでも、最後に本当の気持ちが漏れてしまった。
『お兄さん!!奏を・・・お願いします』
深く、深く、頭を下げずにはいられなかった。ボクの、唯一の希望。奏の幸せの鍵。
予定にないことを言ったからか、奏にバレたらどうするつもりだ、と思ったのだろう。響からは『バカヤロウ』と言われてしまった。
ただ、『当たり前だ!』と、たかだかと拳を振り上げたその姿、その目に嘘はないと信じることができた。

うなだれた奏が空港の奥に消えていく。
ボクの手の届かないところに行ってしまう。
結局、ボクは守ることができなかった。
その身体も、心も。何もかも。

これが、ボクの物語。
決して結ばれることがないのに、期待をしてしまった、愚かな男の恋の結末。
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