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彼女はボクに発情しない
第29章 組曲:月下の夢 ”北極星”
☆☆☆
奏ちゃんが搭乗した飛行機が、滑走路を疾走する。
あんなに重そうな鉄の塊が、ふわりと浮き上がり、タイヤが格納される。ジェットエンジンが力強く噴射し、ぐんぐんと45度の角度で空高く舞い上がっていく。
午後4時35分
柔らかな太陽光が満ちた青い空に、奏ちゃんは飛び立っていった。
私から5メートル位離れて、陽太くんがそれを見上げていた。両の手をぐっと握りしめて、震えている。
ポツリ、と彼が何かを口にした。それは、多分、名前。彼が愛したたった一人の人の名前だ。
「奏・・・」
またつぶやく。繰り返し、繰り返し、その声はどんどん大きくなる。
「奏!・・・奏、かなでぇ−!!!」
飛行機が空の彼方に見えなくなると、陽太くんは足から崩れ落ちて大泣きした。座り込んで、子供のように泣き続ける。
きっと、ずっとずっと我慢していたのだろう。周囲に人だかりができても、誰の目も気にすることなく、大声で愛しい人の名を呼び続け、いつまでも、いつまでも泣き叫んでいた。
そんな姿、見ていたくないのに、目を離すことができなかった。
この日、私は、恋しい人と恋敵を同時に失ったのだ。
奏ちゃんが搭乗した飛行機が、滑走路を疾走する。
あんなに重そうな鉄の塊が、ふわりと浮き上がり、タイヤが格納される。ジェットエンジンが力強く噴射し、ぐんぐんと45度の角度で空高く舞い上がっていく。
午後4時35分
柔らかな太陽光が満ちた青い空に、奏ちゃんは飛び立っていった。
私から5メートル位離れて、陽太くんがそれを見上げていた。両の手をぐっと握りしめて、震えている。
ポツリ、と彼が何かを口にした。それは、多分、名前。彼が愛したたった一人の人の名前だ。
「奏・・・」
またつぶやく。繰り返し、繰り返し、その声はどんどん大きくなる。
「奏!・・・奏、かなでぇ−!!!」
飛行機が空の彼方に見えなくなると、陽太くんは足から崩れ落ちて大泣きした。座り込んで、子供のように泣き続ける。
きっと、ずっとずっと我慢していたのだろう。周囲に人だかりができても、誰の目も気にすることなく、大声で愛しい人の名を呼び続け、いつまでも、いつまでも泣き叫んでいた。
そんな姿、見ていたくないのに、目を離すことができなかった。
この日、私は、恋しい人と恋敵を同時に失ったのだ。