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彼女はボクに発情しない
第6章 雨音とキスの追走曲
奏と一緒に公園にいたのだ。最初はちゃんと見ていた。でも、その後遊びに来た友達とサッカーをするのに夢中で、奏から少しだけ目を離してしまった。

気がついたら、奏が見当たらなかった。
さっきまでブランコの横の木陰のベンチに座って本を読んでいたはずなのに。

ボクは公園を見渡した。いない・・・、どこにも・・・。
『ごめん!』
友達に断ると、慌てて周囲を駆け回った。公園から出て、あちこちの路地を覗いて回った。心臓が痛いほど早く打つ。
奏が自分からいなくなることはまず考えられない。
嫌な予感しかしない。

どこだ?奏!奏!

当てなんかない。闇雲に走り回る。
そして、見つけた。

公園から少し離れた団地の自転車置き場。ちょうど、周囲から死角になるようなところ。知らない、30代くらいの男性と一緒にいた。

奏は『発情』していた。

トロンとした目で、見上げながら、しなだれるように首にしがみついている。
そして、ボクが声をかけようとした時、彼女はその男性の唇に吸い付くようにキスをしていた。

一瞬ボクの頭は真っ白になった。眼の前の光景がまるで遠い夢の中で起こっているかのように感じられる。世界が薄い紙切れで出来たようだ。現実感がない。

誰かが遠くで叫んでいる。
いや、違う。ボクの声だ・・・。
絶叫する、ボクの声。

『かなでっー!!!!!」

世界に急速に色と音が戻る。それとともに、早鐘のように打つ自分の心臓の鼓動も感じる。
眼の前が真っ赤になったようで、逆上して、ボクはその男性に向かって突っ込んでいった。

今から思うと、ボクの形相は相当だったのだろう。男性は「ひっ!」と妙な声を上げると、何度も転びそうになりながら、その場を走り去った。
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