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彼女はボクに発情しない
第30章 交響曲 ”彼女はボクに発情しない”
☆☆☆
「もう、あれから二年も経つんだね」

後ろ手に手を組んで、優子が歩く。ボクはその後ろを少し離れてついていく。
大学の構内。今日は入学式なので、一般の人もうじゃうじゃいるので、学生ではない人がいても目立つことはない。

皆はもう少し昔話がしたいのでと、カフェに行くと言った。ボクと優子はあとから合流することになっている。あとから行くから先行っててと、優子が言ったのだ。ルリが軽くウィンクをしていた。

「陽太くん、結構、酷いよね」
「ごめん」

速攻で謝る。

「また、そうやってすぐ謝るぅ」
ぷっと頬をふくらませるその表情は2年前と変わらない。

そりゃそうだ。地獄に落ちても不思議ではないくらいの罪だろう。
何万回謝っても足りない。

「私ね、いっぱい頑張ったんだよ」

知ってる。優子は頑張り屋だ。大学もすごく頑張って、何段階も偏差値を上げて現役で第一志望に進学していった。

「今度ね、英検1級、受けるんだー。この間、惜しいところまでいったからね。次は絶対合格する!」

ぴらっと受験票を指で挟んで見せる。へー、英検てそういう受験票なんだ。

「今度は、風に飛ばされないように注意しなよ」

軽口のつもりで言ったのだが、優子が目を丸くしてボクの方を見たので、びっくりした。

「覚えていたの?」
え?そりゃ覚えているでしょう?高校の入学試験日当日、受験票が風に飛ばされて、途方に暮れていた女の子がいた。それ、優子だったじゃん。

「てっきり、私、分かってなかったのだと思っていた・・・」
そのまま、彼女はうつむいた。
「やっぱ、陽太くん、ずるいや・・・。ここで、このタイミングで、そういうこと言っちゃうの。ホント、反則だよ・・・」

え?な・・・何が反則なの?
突然感情があふれてきている様子の優子の姿に、わけも分からずオロオロしてしまう。

「全く・・・私、カッコ悪いったらありゃしない。本当は、もっとクールにサプライズって、決めたかったんだけど・・・なあ。ホント、陽太くんの・・・バカ・・・」
え?優子?・・・涙ぐんでるの?
突然、『大学の校舎裏で女の子を泣かせるの図』に巻き込まれ、ボクは困惑した。

「バカ陽太!・・・後ろ振り向け!・・・それで・・・それで・・・いっちゃえ!!!」
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