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彼女はボクに発情しない
第6章 雨音とキスの追走曲
☆☆☆
「奏!」
自分の声で目が覚めた。
自分の家、ボクの部屋。
朝ではない時間に自分の部屋で目が覚めるのに、違和感がある。

あれ?なんで?

そう考えて、思い出した。今日は学校休んだんだった。
正確に言うと、1日はしっかり休んで怪我と風邪を治すように言われたんだった。

昨日、教室でひっくり返って、早退することになり、家で熱を測ったら39度まで上がっていた。母が学校に連絡したところ、飯長先生から「明日は学校に来ないで療養を」と言われた次第だ。

一応、今日の午前中は病院に行き、簡単な検査をしたが、頭は大丈夫そうだった。熱に関しては風邪でしょうということで風邪薬が出た。それを飲んで寝ていたおかげか、大分身体は楽になった気がする。

時計を見ると16時を回っていた。
そろそろ、学校のみんなは帰宅し始めるころだろう。

随分、昔の夢を見た。
あれは、ボクらが中学1年生のときのことだった。まだ、ボクは奏の性処理に慣れていなかったし、今みたいに奏がSOSを出せるようなアプリを作ってもいなかった。それで、あんなふうに見失ってしまうことが何度かあったのだ。

大抵の場合は大した問題にはならなかったが、あのときは、奏が知らない人を誘惑して、キスをしてしまったのだ。奏はかなり動揺し、数日間、学校にすら来られなくなっていた。

もちろんボクは毎日奏を迎えに行った。
でも、家から出てくることはなかった。

結局、奏が自分の力でふっきって出てきてくれるのを待つことしか出来なかったのだ。女の子にとって、キスがどんなに重要なものか、痛いほど理解させられた事件だった。

まだ、謝っていなかったな・・・。あのこと。

『こんなの酷い』と泣き叫んでいた奏に、ボクは言葉をかけられなかった。
そして、その後も、ボクらはそのことに触れることは自然と避けていたのだ。

ゴロンと、寝返りをうつ。窓の外が暗くなってきた。
ここの所、夕方になると激しい雨が降ることがある。今日も、雨かもしれない。そう言われてみれば、遠雷の音が聞こえるような気がする。
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