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彼女はボクに発情しない
第9章 ボクと歌姫たちの三重奏
彼女のサービス。鋭くコーナーを突いてくる。ややドライブもかけてくる。これまで見てて分かってはいたが、彼女は経験者だ。

でも、私だって経験者だ。中学時代、兼部で卓球部に属していた。試合だって出ていたのだ。

激しいラリーの末、私のリターンが炸裂する。
笹本さんも、私が経験者であることを悟っているだろう。多分、彼女らの計画では、私と陽太がどんなゲームを提案してきても、バッティングとダーツ、そしてこの卓球の3ゲームは手堅く取れると思っていたに違いない。

だから、この卓球で私がここまで強いということは、計算外だっただろう。

私のカットサーブ。急速に変化する球に笹本さんが大きく体勢を崩す。そこに、リターンを叩き込む。

ただ、彼女もやはりそれ相応の実力を持っているようだ。私も一方的に点が取れるわけではない。若干、私がリードしてはいるが、一進一退の攻防が繰り広げられる。

「頑張れ!優子!」
大槻さんが声援を送る。きっと、大槻さんはいい人なんだろう。あなたでしょ?親友のために、こんな舞台まで設定したのは。

「奏!行け!」
陽太が応援してくれる。その声が私に力をくれる。
たとえ、そういう意味ではないとしても、『頑張っていいんだ』と思わせてくれる。

試合は白熱していた。実力が拮抗している者同士の戦いだ。激しいラリーが続き、白球が目まぐるしくテーブルの上を跳ね回る。

「飲み物、置いておきますね」
霧島くんが頼んだのだろう。ドリンクサービスをしに来た男性店員がサイドテーブルに人数分の飲み物を置いていった。

その瞬間。

ドクン

私の心臓が大きく高鳴った。眼の前が薄赤色に染まる。
手足がぼわんと温かくなる感じ。身体の感覚が鋭くなっていく・・・。

なんで、こんな時に!

私は『発情』した。
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