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人妻デッサン~絶頂に導かれた絵理奈
第14章 別れ
「大丈夫・・・・・、大丈夫です・・・・・・・・」

「えっ、まさか・・・・・・・、あなたが・・・・・・・・・・」

「いえ、違います。私は別の名前で・・・・・・・・」

「あら、そう。あなたも随分お綺麗な方だから・・・・・・・・」

連れているマルチーズ犬をあやしながら、女は興味深そうに聞いてくる。

「でも、あなたもここに通ってらしたのかしら?」

「ええ。先生に絵を教えてもらってました」

その瞬間、絵理奈を見つめる中年女の視線が好奇に光った。

「じゃあ、やっぱり、あなたも、その、つまり・・・・・・」

「私はそんなことは一度もされてません」

「えっ、そうなの?」

「原島さんは紳士で、とてもやさしい方です。私に無理を強要するようなことは、一度だってありませんでした」

「それは噂とは随分違うわねえ」

「原島さんは、私が知らなかったことをたくさん教えてくれたんです」

「へえ。たとえばどんなことを?」

女の質問に、絵理奈は一瞬言葉を詰まらせる。

答えに迷ったからではない。

それを、この陳腐な女に言ったところで、理解してもらえるはずがないのだ。

「ほら、何も教えてなんかもらってないんでしょう?」

「・・・・・・・」

「女の人を裸にして楽しむような男に」

「愛です」

「えっ?」

「私は愛を教えてもらいました、原島さんに」

「愛・・・・・・、まあ、あなた・・・・・・・、ふふふふ・・・・・・・」

おかしそうに笑いながら、中年女が愛犬と一緒に立ち去っていく。

絵理奈がその後ろ姿を見送ることはなかった。

愛などという概念には、あの女は生涯気づくこともなく老いていくのだ。
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