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背徳は蜜の味
第32章 人妻その三十二 ~人妻ナースの夜の看護~

「看護師長!あの患者さんを何とかしてください!」

一人の若いナースが例の交通事故の若い患者さんからハラスメントを受けたと満子に言いつけにきた。

「あら?あの子が何か?」

今朝、血圧を計りに行ったら、尻を触られたのだと憤慨しながら文句を言う。

「あの患者さん、エロ小説の読みすぎだわ!
ナースを風俗嬢とでも思っているんじゃないでしょうか」

SNSが世に蔓延(はびこ)ってから、
無記名なのをいいことに入院生活の事を面白おかしく記載する輩が増えていた。
ナースにオナニーの手伝いをしてもらっただの、
寝静まった病室で淫乱ナースとセックスをしただの、その多くは創作のお話であるにも関わらず、
例の交通事故で入院している高校生のような若い子には、それらが全て真実なのだと思い込んでしまうところがSNSの恐ろしい事だ。

「わかったわ、私からよく言い聞かせておくから」

ただでさえ人手不足なのだ。
ハラスメントで心を病んでナースに辞められたら、その皺寄せは残っているナースが背負わなければいけないことになる。

入院生活では心穏やかに過ごしてもらうのが一番だけれど、互いに気まずい雰囲気になろうとも、ナースを守るのもまた師長としての役目だと心得た。

点滴を交換する時間になったので、
若いナースに「あとは私が引き受けたわ」と
その役目の交代を買って出た。

満子が病室に行くと、例の高校生が「なんだ、若いナースじゃないのか」と不満そうに言った。

「あのね、あの子はナースなの、患者さんのお世話をすることはあっても、身体を提供する義務はないのよ」

「なんのこと?」

「君、あの子のお尻を触ったんだって?
ここは病院であって、お触りバーでも風俗店でもないんですからね!
今後、ナースの体に触れたら転院させられることも頭に入れておきなさい!」

「お~、怖い、怖い。
まるで母親みたいだな…まあ、うちの母親は俺の事なんかどうでもいいから叱りもしないけどな」

一瞬だけ、高校生がとんでもなく寂しそうな顔をしたのを満子は見逃さなかった。

『この子…母親の愛情に飢えているんだわ』と思った。




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