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天狐あやかし秘譚
第115章 妖異幻怪(よういげんかい)
実はこの服、ポケットに押し込んであるケース以外にも、服のあちこちに石釘を潜ませることができる。さすがにスパイではないので、日頃の大学での講義などのときに服に石釘を仕込むことはないが、こういった活動時にはいざという時を想定してあちこちに石釘を潜ませて活動できる。その点で、この三つ揃えはとても便利なのだ。

身を翻しては進み、進んでは木陰に身を隠す。石釘の射程まで見張りと思しき人に近づく必要がある。

あと2メートルほどまで近づいたところで、少し大きめの木に身を隠した。石釘を右手に構え、そこにいる人の気配をうかがう。

どうやらその『人』はゆっくりであるが移動しているようだった。右に左に懐中電灯の光を振りながら歩いている。その光を見ていれば、『人』がどっちを向いているか推測できる。

宝生前は、懐中電灯の光が自分がいる方とは正反対に振れた時を見計らって木の陰から身を乗り出し、石釘を投げつけ、呪言を唱える。

これは、対象となった者の意志力を一時的に低下させる土の術式!

ー石意衰寂(せきいすいじゃく)!

石釘は寸分の狂いなく、『人』の首筋に命中する。命中した刹那、石釘に刻まれたいくつもの呪紋に込められた霊力が、呪言の作用でその威力を発動する・・・はずだ。

「キャっ!・・・痛い・・・のです!」

ん?・・・『のです』?

その声に聞き覚えがあった宝生前が慌てて隠れていた場所から飛び出す。目の前には、ふわりとした貫頭衣風の衣装、強めの紫のアイシャドウに髪の毛も光の角度によっては紫に見える不思議なファッションの女性が、手にしていた懐中電灯を取り落としそうになりながら、ふらりふらりと身体を揺らしているのが見えた。

土門・・・さん!?

それはまさしく占部衆筆頭『丞の一位』の位階を持つ陰陽博士、土門杏里その人だった。

「はれ、はれ・・・ぇ」

『石意衰寂』により、意志力を削がれたことで、立位を保つことが難しくなっているようで、ふらりふらりとした体動が大きくなっていく。

「危ない!」
土門が倒れかけた時、宝生前はここが敵地であることを忘れて声を上げていた。そして、慌てて駆け寄ってその身を抱きかかえた。

間一髪、倒れ込む前に宝生前が間に合い、土門が頭から地面に昏倒することは避けられた。

・・・なんで!?ここに土門さんが!?
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