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天狐あやかし秘譚
第115章 妖異幻怪(よういげんかい)
まず考えたのが、これが幻覚や幻影のたぐいである可能性だ。もちろん、霊力を高め、霊視を行う。

・・・妖怪の類では・・・ないみたいです。

次に手触りや匂いなど、視覚以外の感覚を研ぎ澄ませてみる。幻覚だとすると、感覚入力に齟齬が起きることが多いからだ。

しかし、それもない。

それに、宝生前と土門はとあるきっかけから、一度ならず何度もベッドを共にしている仲だ。この肌の感触、身体の重み、体温、そしてそれ以上に、この体全体から立ち上ってくる香気を間違うわけがない。

これは確かに土門杏里だ。

次に考えたのは、何らかの理由で作戦が変更になったということだった。非常に考えにくいことだが、それを土門が知らせにきたという可能性だ。

確かに、陰陽寮随一の占術師である土門であれば、携帯も持っていない自分の居場所を割り出すこともできるだろうと思った。

『とにかく、術を解かなければ』

首筋に刺さった石釘を抜く。石釘はとても小さいもので、針といってもいいほどのものだ。小さい傷がついてしまったが、これで済んでよかったかも知れない。

あとで、丁寧に謝っておこう。

宝生前はそう思った。右手にはめた石の指輪に念を込め、今度は覚醒のための術式を発動させる。

「・・・快土晴明(かいとせいめい)」
土門の額にかざした手にはめた指輪がポゥと淡く光り、彼女の顔を少しだけ青く照らしだす。一瞬、土門が顔をしかめるような仕草をした。

「土門さん、すいません・・・起きてください」
優しく体を揺さぶると、うーんという声とともに、土門が目を開いた。

「大丈夫ですか、杏里」
宝生前は土門と二人きりの時、彼女のことをこう呼ぶ。
二人が2ヶ月ほど前から恋人として付き合っているのは、陰陽寮では公然の秘密だった。

・・・っ?

なにか一瞬だが、胸にちくりと違和感のようなものが過った。
しかし、それも、土門の言葉にかき消される。

「宝生前さん・・・桐人さん・・・よかったのです。間に合ったのです。」
「一体どうしたんですか?」

宝生前がゆっくりと土門を抱き起こす。立たせてみたが、どうやらふらつきやめまいのような術の副作用は出ていないようだった。そのまま手を取って近くの木の下まで誘導して座らせた。
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