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天狐あやかし秘譚
第115章 妖異幻怪(よういげんかい)
宝生前は先程からずっと緊張していたが、恋人の土門の顔を見たせいか、なんだかすっかり脱力してしまった。任務中であるので本来はこんなことをしている暇はないのだが、『土門がなにかの事情を抱えているかもしれない』『それを聞き出すためだ』と自分に言い聞かせ、土門の隣に腰を下ろした。

懐中電灯の明かりは念のため消させる。辺りは再び闇に包まれた。
虫の声がそこかしこから微かに聞こえる。空からは木々の葉を通してなお、星明かりが降ってきていた。

「杏里・・・いや、土門様・・・。なぜ、こちらにきたのですか?」

仕事中は下の名で呼ばないルールだった。しかも陰陽寮では通例、位階が上の者には名前に『様』をつけて呼ぶのが習わしだった。

「知らせなくてはならないことができたのです。それで、宝生前さんと縁が強い私が、先回りして探しに来たのです。ちなみに、御九里の方には日暮がいってます」

やはりそうか・・・。宝生前は得心した。
御九里の方に行った日暮というのも、御九里との交際の噂がある占部の職員だ。同じように縁をたどるならもってこいの人選なのだろう、そう思ったのだ。

「何があったのですか?」
「端的に言えば、作戦終了です。」
「え!?」

土門によると、宝生前たちが鞍馬山に出発して程なく、暦部門の高森から連絡が入り、収束する未来の解除法が見つかったとのことだったのだ。土門の説明によると、外部からの呪力により、一種の『量子もつれ』のような現象を引き起こすことで未来の収束確率を正常化する方法らしい。

「すでに、土御門様が、その方法で綾音さんの呪を解いているのです!」
「だから撤収・・・と?しかし、それでも神宝の危険は・・・」
「それこそ天狐の出番なのです!下手に呪をかけられる可能性のある術師を配置するよりも、絶対に未来を確定されない天狐に作戦を一任する・・・それは最も合理的な方法なのですから」

これも土御門の決定だと教えられた。

たしかにそうかもしれない・・・。
自分でもそう考えるだろうなと宝生前も納得をした。

「そうとわかれば、早く山を降りるのです・・・急ぐのです!」

急ぐ・・・確かに、撤収となったら敵に気づかれない内にここを抜けるのが得策だ。それにしてもなんか・・・焦っているような?
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