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天狐あやかし秘譚
第115章 妖異幻怪(よういげんかい)
☆☆☆
宝生前と土門が出会ったのとほぼ同時刻、御九里もまた、森の中で意外な人物に出会っていた。

「なん・・・で?」

そこにいたのは、自分が騙した男たちに襲われた挙句、幼い御九里の目の前で鬼と化した母、塔若子(とわこ)だった。その姿は、鬼と化したあとの醜い姿でもなければ、男どもを喰らうために別人に化けた姿でもない。御九里が確かに最後に覚えていた、人間だった頃の母の姿そのものだった。

おかしい・・・そんな事があるはずがない。

そう、あるはずがないのである。
なぜなら、鬼となった塔若子は、御九里自身が追い詰め、目の前で大型トラックに轢き潰され死んだはずなのだ。荼毘に付される様子も確かにその目で見ていたのだ。

目の前にいるこれが、母であるわけがない。

それは分かってるのだが、手が、足が、震えるのを止めることができなかった。目を細めつつ、ジリリと距離を詰める。

万が一ということがある。でも・・・

葛藤をした。もしかしたら本物かもしれない。何かの呪術の作用で蘇った・・・もしくは一時的に魂としてこの世界に帰って来た・・・その可能性もある。もちろん、敵の罠という可能性もある。

そっと右手でズボンの腰のあたりにすえてある懐剣の感触を確認した。

確かめなければ・・・。

「あんた・・・なにもんだ?」

強がってはいたが、やはり声は上ずってしまう。髪型、顔の形、目、立ち方、服装に至るまで、見れば見るほど母そのものだ。

ダメだ・・・飲まれる!

御九里は首を振る。そんな訳はない。母は死んだ。俺が殺した。そう自分に言い聞かせた。

「悪ふざけも大概にしろよ・・・」
つぶやきながら、ゆっくりと懐剣を引き抜く。塔若子がゆっくりと近づいてきた。懐剣を抜く手がブルブルと震え、力が入らない。

もう一度殺す?誰を?
母を?

そんなこと・・・できやしない。

引き抜いた懐剣が手からこぼれ落ちた。目の前の懐かしい姿が涙で曇っていく。ゆっくりと塔若子が御九里の首筋に手を伸ばしてきた。

「牙城さん!・・・そいつから・・・塔若子から離れてください!」

後ろから声をかけられて、はっと気づいた御九里は身をかわし、寸でのところで塔若子の腕から逃れた。
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