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天狐あやかし秘譚
第115章 妖異幻怪(よういげんかい)
声がした方を向く。そこにいたのは日暮美澄・・・占部衆属の一位にして、現在は御九里の恋人だった。両おさげの髪型、身体のラインを出さないゆったりとした服、そばかすだらけの顔も、星明かりの中でしっかり確認することができた。
「美澄・・・」
「間に合って良かったです。牙城さん・・・
敵の中に幻術を操るやつがいます。私、それを伝えるために来たんです。」
幻術・・・?
その言葉にもう一度、御九里は母の方を見た。
とても幻術とは思えない。地面を踏みしめる様子も、息遣いも、時折吹き抜ける風に揺れる髪も、星明かりに照らされた服の質感も・・・
あれが・・・幻術?
「牙城さん、早く・・・こっちに来てください。ここは危険です。いったん距離を取りましょう。」
日暮は塔若子の方をキッと睨みつけながら、御九里に向かって右の手を伸ばす。
一方母、塔若子もまた、御九里の方に向かって手を伸ばしていた。
「・・・行かないで・・・行ってはダメ」
初めて声を聞いた。その声も記憶に残る母のそれ、そのものだった。
「塔若子・・・牙城さんを惑わさないで!」
日暮が鋭く言い放った。
御九里の方をチラと見て、今度は少し穏やかな声で続けた。
「牙城さん・・・わかってると思いますが、本物の塔若子さんはもう・・・」
わかっている。そんなことは・・・
やっぱり、あれは幻術・・・それに、そもそも死んだ母が帰ってくる道理がない。
「塔弥・・・」
とう・・・や?
それは初めて母から聞く言葉だった。
まさか・・・まさか、まさか!
ゆっくりと御九里が母の方に顔を向ける。
「あなたの名前よ・・・。あいつがいるときには呼ぶことができなかったけど、私があなたが生まれたときにつけたの・・・塔弥・・・私の名前から一文字とった・・・」
「それ・・・俺の・・・名・・・前?」
御九里は自分には名前がないと思っていた。
誰も自分の名を呼ばない、誰も自分を認めない。
誰も自分を愛していないと・・・思っていた。
「牙城さん!耳を貸しちゃダメ!」
日暮が叫んでいる声が、とても遠くに聞こえた。
もう一度、御九里は日暮の方を見る。そこには必死な顔をしている恋人がいた。
そして、塔若子の方を見る。長い間、探し求め調伏したはずの母の姿があった。
「美澄・・・」
「間に合って良かったです。牙城さん・・・
敵の中に幻術を操るやつがいます。私、それを伝えるために来たんです。」
幻術・・・?
その言葉にもう一度、御九里は母の方を見た。
とても幻術とは思えない。地面を踏みしめる様子も、息遣いも、時折吹き抜ける風に揺れる髪も、星明かりに照らされた服の質感も・・・
あれが・・・幻術?
「牙城さん、早く・・・こっちに来てください。ここは危険です。いったん距離を取りましょう。」
日暮は塔若子の方をキッと睨みつけながら、御九里に向かって右の手を伸ばす。
一方母、塔若子もまた、御九里の方に向かって手を伸ばしていた。
「・・・行かないで・・・行ってはダメ」
初めて声を聞いた。その声も記憶に残る母のそれ、そのものだった。
「塔若子・・・牙城さんを惑わさないで!」
日暮が鋭く言い放った。
御九里の方をチラと見て、今度は少し穏やかな声で続けた。
「牙城さん・・・わかってると思いますが、本物の塔若子さんはもう・・・」
わかっている。そんなことは・・・
やっぱり、あれは幻術・・・それに、そもそも死んだ母が帰ってくる道理がない。
「塔弥・・・」
とう・・・や?
それは初めて母から聞く言葉だった。
まさか・・・まさか、まさか!
ゆっくりと御九里が母の方に顔を向ける。
「あなたの名前よ・・・。あいつがいるときには呼ぶことができなかったけど、私があなたが生まれたときにつけたの・・・塔弥・・・私の名前から一文字とった・・・」
「それ・・・俺の・・・名・・・前?」
御九里は自分には名前がないと思っていた。
誰も自分の名を呼ばない、誰も自分を認めない。
誰も自分を愛していないと・・・思っていた。
「牙城さん!耳を貸しちゃダメ!」
日暮が叫んでいる声が、とても遠くに聞こえた。
もう一度、御九里は日暮の方を見る。そこには必死な顔をしている恋人がいた。
そして、塔若子の方を見る。長い間、探し求め調伏したはずの母の姿があった。

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