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恋人岬には噂があった
第2章 第2話
 野上は送信したあと、失敗したなと思った。なにか想像してたのかと訊いても、書けるわけがないではないか、と気づいたからである。
 だが、返信はすぐに届いた。
《野上さんの質問ほんとにストレート。想像したのを書くって、恥ずかしいです。でも、私たちって気が合うから、同じこと想像していたと思います》
 そのメールを読んで、奈々はやはりセックスを匂わせていると野上は思った。メールでは積極的だな、とも思った。
《うん。たぶん同じこと想像してたと思うよ。
あと、俺の本音は今夜スーパーで会って、改めて一目惚れでいいのかな。年がいもなく一目惚れしてる》
 野上がメールを打つのは遅い。しかし、奈々の返信は速かった。
《変な女だと思わないでください。私、高校三年生のときから野上さんに恋してます。携帯ショップで野上さんを見たとき、ヘアスタイルは違っていたけど、リーゼントの写真のひとだって、すぐに気づいたんです。
野上さんが高校三年生のとき、同じクラスにいた、よね子って覚えていますか? 四人で母たちと海水浴に行って、湘南の砂浜で写真撮りませんでした? 私、野上さんがひとりで写っている写真、母に貰いました。私が高校三年生のときです。私、あの頃の母に似てません?》
 メールを読み終えると、野上はアルバムを取り出すまでもなく、すぐに思い出している。どこかで見たような眼差しは、野上の記憶に残っていたのだ。くっきりした眉毛と目鼻立ち──。
(──あの日、砂浜で四人で写っているのは、俺と山下、そして米沢瞳と、山下の女房となった真弓だ。全員同級生だ。スイカ割りもしたんだよな)
 野上はこのときはっとした。山下は人並みだが、自分の写真は海水パンツの膨らみが斜めにもっこりしている。奈々はその写真を高校三年のときから持っていると言うのだ。それに瞳は、いまでも山下の女房と付き合いはあるのか? と野上は思った。
 野上は、メールで確かめることにした。
《携帯ショップで初めて会ったとき、君はすぐに俺だと気づいたんだね。
それに、メールを読んですぐに分かった。いまは姓が違うけど、君は米沢瞳さんの娘さんだね、確かに似ている。
ところで、瞳さんと真弓さんは、いまでも付き合いはあるの?
俺の写真を持っているんだね。嬉しくもあり、照れもある》
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