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恋人岬には噂があった
第3章 第3話 最終章
 ハンカチでどこを拭くのだろう、と野上は思った。彼女の脚をじっくり見ていくと、足もとがほんの少し濡れていた。
「俺のタオル使えばいいよ。娘がかごに入れて、いつも置いてくれてるんだ。仕事で濡れることもあるからね」
 野上はタオルを取り出した。
「こんなに濡れて、俺が拭いてあげるよ」
 返事も聞かずに、野上は濡れてもいない太ももにタオルをあてた。あっ、と奈々は言って、ハンドバッグを握りしめている。
 だが、撫でるようにタオルを動かしたとき、奈々は野上の手を強く押さえて来た。気は許しているらしく、嫌がる素振りはなかった。
 野上は手を強く押さえれたまま、奈々を見た。唇にすき間ができて、あごをちょっと上げて目を閉じている。肉棒を挿入するときも、奈々は目を閉じている気がする。
「そんなに強く押さえると拭けないよ。手を離して?」
「でも、こんな所で恥ずかしい」
 それはそうだなと野上は思った。岬の灯台の公園なら、ひと目はないだろうと思う。
「今からドライブはどう?」
 奈々は、両手を野上の手に添えた。
「恋人岬の公園に連れていってほしい。私、野上さんとそこでデートしたいと思っていたんです」
「俺と同じだ。奈々と一緒にあの公園に行きたかったんだ」
 奈々が、野上の手を握りしめた。
「今から連れてって」
「もちろんだよ」
 野上がそう言うと、奈々は手を離した。その瞬間、タオルで撫でるように太ももを拭いた。あっと奈々は言ったが、かまわず、ふくらはぎも拭いた。
 野上は、奈々をちらと見た。もしかすると、彼女は性的に興奮しているのかもしれない。ハンドバッグを握りしめて、目を閉じて顔をそむけている。
「では、恋人岬にレッツゴーだ」
 フロントガラスに跳ねる雨と、激しい雨音の中で、野上はそう言った。しかし、余韻が残っているのか、焦点の合わない眼で奈々に見つめられた。
 彼女の唇はしっとりと濡れているように見えた。キスしてもこの雨だ、ひとに気づかれることはない、と野上は思った。
 野上は、唇をそっと近づけた。奈々が目を閉じるのがわかった。
 柔らかな唇だった。奈々は、んっ、と言い、恥じらいが切れたようにしがみついて、舌が絡んで来た。
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