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恋人岬には噂があった
第1章 第1話
 野上は、彼女の言葉に呆然と立っていた。
 目の前から去って行く彼女の後ろ姿に、恋人岬での願い事が一瞬で消えてしまった、と後悔した。悔やんでも悔やみきれなかった。問いかけるにしても、違う言葉があったはずだ。
 立ちつくす野上のそばを、買い物客は何ごともなく次々に通り過ぎて行く。
 気づくと、野上の周りにざわめきが戻り、この店のコマーシャルソングが流れていた。

 失意の野上はスーパーをあとにした。いつもなら、渚沿いを走るときには、往年の名曲を口ずさみながら家路につくのだが、今夜は違っている。
 かもめバイパスが終わり、彼女の暮らす町の明かりがルームミラーから遠ざかるにつれ、野上は気が重かった。
(俺はなぜ、あんなことを奈々に言ったのだろう。バージンを奪いたいという心の本音が桃を浮かべ、あの言葉を無意識に言わせたのだろうか──)
 自分の気を紛らわそうと、野上はラジオをつけた。パーソナリティは落ち着いた口調だった。しかし、うかぶのは奈々のことばかりだった。いつの間にかラジオが静かになっていた。男性ボーカルのハスキーな歌声が流れ始めた。
(──なんと心にしみ入る曲だろう)
 以前聴いたことのある四人組のバンドの曲だった。野上はボリュームを上げた。歌詞と曲調が、いまの自分に重なっているように思えたからである。
 野上はルームミラーに映る町の明かりをちらと見た。もうすぐ町境のカーブにさしかかる。
 次に見たとき、それまでルームミラーに映っていたスーパーの看板や町の明かりは、もう見えなかった。ルームミラーは暗く、この恋は既に手遅れだと暗示しているようでもある。おそらく、自分にメールが届くこともないだろう、と野上は落胆した。
 少し走ったとき、野上は広場に車を停めた。この曲が終わると同時に外に出て、自分に気合いを入れるのだ。ここで全て終わらせるのだ。父親が若い女に失恋したという気配は、娘に悟られたくはない。
 曲が終わって外に出ると風が吹いていた。潮騒が周りに大きく反響し、自分に迫って来る気がした。星空の下を、野上は海側へ渡った。
 野上は太平洋に向かって叫んだ。
 風の吹く中で大声で叫び、少しは気分が晴れたように思えた。ただ、周りに人がいなくても、これはちょっと照れるじゃないか、と野上は思うのだった。
 
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