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コンビニバイトの男の子
第8章 密談
「鮎川君。上手くいくように、シナリオを作ったらどうだろう」
「シナリオ、ですか?」
「そう。ドラマの台本とまではいかないけど、妻が了解するまでの流れを予め考えておいたら、うまく誘えるんじゃないかな」
「どんなふうにでしょうか?」
「そうだなー、妻は料理好きなのでそこを褒めて、後は押しに弱いところを突いて。悪いけど、経験が無いということは利用させてもらうよ」
「は、はあ」
「妻が了解した後は流れに任せるしかないけど、妻は面倒見が良いから大丈夫じゃないかな」
「上手くいくでしょうか・・・」
不安げな顔をする悠希を励ますように、貴之は努めて明るい声で強引に話を進めた。
「きっかけさえ掴めたら後はなんとかなると思うから、まずはこれでやってみようか。上手くいかなかったら、次の方法を考えたらいい。何か紙あるかな?」
夕食後、2人で時間を掛けて詳細な流れを考え、これならいけそうだと思えるシナリオを完成させた。
「あと、これを」
貴之が隣の椅子に置いていたダレスバッグを開けて中に一度手を入れると、取り出した握り拳を悠希に差し出した。
「鮎川君、手を」
「は、はい」
出された悠希の掌に拳を押し付けるように重ねると手を開き、持っていたものを手渡した。そこにはコンドームの包みが1つ乗せられていた。
「これだけは、忘れずに必ず着けて欲しい」
「解りました」
怖いくらい真剣な表情で貴之が告げ、悠希も真剣な表情で返事をした。
避妊に使うものを手渡したことで、夫以外の男性に妻とセックスさせようとしていることを改めて意識した。
最後にSNSのアドレスを交換して、言葉少なに食事をした後で悠希は帰っていった。個室にひとり残った貴之は椅子の背もたれに躰を預け、大きく深呼吸した。そこで初めて、緊張で躰ががちがちに固まっていたことに気が付いた。
(これで、いいんだよな)
残っていたワインを一気に飲み干した。味は、解らなかった。
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