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第1章 過去

カズミはいつも中心にいた。
クラスでも、グループでも、どこにいても、彼女の周りには自然と人が集まった。
明るい笑顔と、誰とも分け隔てなく接する姿勢が、男女問わず人気の理由だったのだろう。

私はそんなカズミを観察した。
彼女の表情、仕草、話し方。
それらを徹底的に分析し、頭の中で分解して並べ直した。
そして、そのデータを基に、カズミのような笑顔を練習した。
最初はぎこちなかったけれど、繰り返すうちに、少しずつ自然に近づいていった。

カズミと仲良くなるにつれて、彼女は私にいろんなことを教えてくれた。
「〇〇ちゃんはもっと笑った方が可愛いよ」
「△△くんは〇〇ちゃんの笑顔が好きみたい」
「□□ちゃんは〇〇ちゃんと話してると楽しいって言ってた」
彼女の言葉は、私にとって貴重な情報源だった。
その一つ一つを参考に、私は自分の感情表現を細かく調整していった。

その結果、私にも友達が増えた。
クラスで浮くこともなくなり、周りの人たちと普通に会話ができるようになった。
表面上は、うまくやれているのだと思う。

ただ、心の奥底では、どこか満たされない気持ちが残っていた。
それは、カズミのように自然に笑えていないからかもしれない。
あるいは、感情を学習しているだけで、心がそこに追いついていないからかもしれない。

私にとってカズミは、友達であると同時に、感情表現を教えてくれる先生のような存在だった。