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誰にも言えない、紗也香先生
第9章 雨あがり
「今日はレッスンじゃなくて、勇くんとの“あれ”のために来たの。」

そう呟いたとき、私の声はどこか震えていた。
窓の外では、さっきまでの豪雨が嘘みたいに止んで、夜風が静かに部屋を撫でている。

濡れたスカートとシャツ、それからストッキングまで、部屋の一角に張られた物干しロープに並んでいて、まるで私の“脱いだ日常”が吊るされているみたいだった。

「……先生、冷えない?」

勇くんがそっと近づいて、バスタオルを私の肩にかけてくれた。
けれどそのタオル越しでも、まだ白い男のクッションが私の花を密かに震わせていて──

「う、うん……でも、だいじょうぶ……」

答えながら、テーブルの上に置いた本のページを開く。
それは、“朗読の始まり”の合図。

部屋に英語の声が響く。最初は静かで、淡々と、感情を押さえたような口調。
けれど、白い男の内なる振動が、じわじわと強くなっていくたびに、
私の声は次第に上ずり、甘く、切なく、濡れてゆく。

「…んっ…t-the rain fell hard… on the…」

唇が震えた。腰が自然と揺れてしまう。
でも、読むのをやめたくない。勇くんが、ずっと見つめてるから。

「…は~ and… sh-she stood still… her blouse clinging to… to—」

もう英語なんて、うまく読めていない。
舌がもつれ、呼吸が追いつかない。
それでも、最後の一文まで……たどり着きたかったのに。

「ひゃっ……あ……っ、も、だめ、勇くん……っ!」

ついに、肩が跳ねて、身体が甘い波に飲まれていった。
その瞬間、ページの上に涙みたいに雫が落ちた。

私の頭がふらりと前に倒れた時──
目の前に、勇くんの体が立っていた。

静かで、でも揺るがない、彼の“欲望の塔”。
言葉はいらなかった。

私はそっと口を開き、
それを、深く、静かに受け入れた。

外では、雨の名残に虫たちの声が重なって。
夜の部屋の中には、私の熱っぽい吐息と、しっとりとした濡れた音が、密やかに響いていた。
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