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誰にも言えない、紗也香先生
第6章 アリス

──甘い吐息、肌が触れあう音。
時折、深く息をつくたび、遠くからヒールが床を叩く音が聴こえる。
それに応えるように、金属チェインが小さく揺れる音、
そして……床に落ちる一滴の水音が、まるでリズムのように混じっていく。
暗い闇の中、名前も持たない三人のアンサンブル。
誰が主旋律で、誰が伴奏なのか、それすら曖昧なほどに、
心と体が融け合って、境界は夢の中へと溶けていった。
夢の演奏が、そっと終わる。
でも、そこに拍手はいらない。
誰かがそっと指先を掲げれば、それはもう「アンコール」の合図。
「サヤ様……お疲れさまでした」
柔らかな声が、下の方から私に届いた。
その声と共に、濡れた花びらへと、優しく触れる感触──
何か、ふわふわとした柔らかいものが、私を拭っている。
……まだ半分、夢の中にいるみたい。
思考も輪郭も曖昧なまま、ただその感触に身を預けていた。
──でも。
「……え?」
それが“手”ではないと気づいた瞬間、心の奥で何かが跳ねた。
「信じてくれたね、サヤ」
耳元に、リザの囁き。
彼女の声だけが、私を現実に戻してくれる。
声にできなくて、ただ小さく首を振った。
けれど、見えるはずがないこの闇の中で……
リザには、それがちゃんと伝わっていた。
もう、アリスの気配はなかった。
代わりに、私はベッドのような柔らかなものの上に横たえられていた。
再び、始まる。
今度はふたりきりの演奏。
リザの指が、唇から首筋へ、胸の輪郭へ──まるで旋律のように滑ってゆく。
深い夜よりも静かな部屋の中で、
波打つような音がまた、ひとつ、ふたつ……
私の内側で、再びリズムを刻み始めた。
時折、深く息をつくたび、遠くからヒールが床を叩く音が聴こえる。
それに応えるように、金属チェインが小さく揺れる音、
そして……床に落ちる一滴の水音が、まるでリズムのように混じっていく。
暗い闇の中、名前も持たない三人のアンサンブル。
誰が主旋律で、誰が伴奏なのか、それすら曖昧なほどに、
心と体が融け合って、境界は夢の中へと溶けていった。
夢の演奏が、そっと終わる。
でも、そこに拍手はいらない。
誰かがそっと指先を掲げれば、それはもう「アンコール」の合図。
「サヤ様……お疲れさまでした」
柔らかな声が、下の方から私に届いた。
その声と共に、濡れた花びらへと、優しく触れる感触──
何か、ふわふわとした柔らかいものが、私を拭っている。
……まだ半分、夢の中にいるみたい。
思考も輪郭も曖昧なまま、ただその感触に身を預けていた。
──でも。
「……え?」
それが“手”ではないと気づいた瞬間、心の奥で何かが跳ねた。
「信じてくれたね、サヤ」
耳元に、リザの囁き。
彼女の声だけが、私を現実に戻してくれる。
声にできなくて、ただ小さく首を振った。
けれど、見えるはずがないこの闇の中で……
リザには、それがちゃんと伝わっていた。
もう、アリスの気配はなかった。
代わりに、私はベッドのような柔らかなものの上に横たえられていた。
再び、始まる。
今度はふたりきりの演奏。
リザの指が、唇から首筋へ、胸の輪郭へ──まるで旋律のように滑ってゆく。
深い夜よりも静かな部屋の中で、
波打つような音がまた、ひとつ、ふたつ……
私の内側で、再びリズムを刻み始めた。

