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誰にも言えない、紗也香先生
第7章 日暮れのブランコ
……だが、すぐに。

目の前、気配が生まれた。
声がなくとも、それはわかる。
柔らかな空気の揺れと、胸の奥を打つ鼓動が、私に告げていた。

誰かが、そこにいる。
この暗がりと沈黙のなかで、私のすべてを、見ていた者が。

「……サヤ様」

優しく囁かれた声。
その一言に、私は背筋から足先まで一気に力が抜けてしまった。

——見られていた。
どうしようもなかったあの瞬間も、必死に堪えていた私の姿も、
きっと全部……。

目隠しの向こうで、アリスは何を思ったのだろう。
この汚れた姿に、何を感じたのだろう。

けれど彼女は、責めるでもなく、笑うでもなく、
ただそっと、静かに近づいてきた。

気づけば、触れられていた。
まるで夢の中を彷徨うように、
そっと触れる舌が、私の脚をなぞる。

熱を感じた場所も、流れた痕も、
まるで愛おしむように——まるで、赦すように——。

そしてその舌は、床に零れた名残りにさえも届き、
まるで穢れを許す祈りのように、静かに、丁寧に、
雫を味わい、痕跡を飲み干すように撫でていく。
それは彼女だけの儀式。夜に捧げる、甘美な契り。
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