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真昼の幽霊
第3章 消えたパンツ

 2人で横たわるには狭いシングルベッド。絡まることのない足先。スプリングが軋む音がしたかと思えば、何かを探すように太ももに男の足が乗り上げ、腰あたりで手が組まれてやんわりと身動きがとれない。

「重い」

 幽霊が人間に捕りつかれている、なんておかしな話だ。
 たぶん、タローに触れている時だけ実体化しているおかげで、すり抜ける事もなくベッドに横たわる真似事ができている。思えば自転車の時もそうだった気がする。

 「少し疲れた」と残念そうに言って眠りについたタローの顔をのぞく。目を閉じている彼は少し幼く見えた。やや長い前髪がまぶたにかかっている。鼻筋はすっと通っており、肌は白い。体格もいいしモテてそうだ。どうして生きることに悲観的なのか不思議なぐらいだ。
 規則正しく穏やかな寝息が聞こえるものの、その唇の血色は悪い。

「……まさか私が生気を取ってるわけじゃ、ないよね」
「ん」
「あっ」

 唇をつつけば薄く口が開き、ぬるりと指先が舌で包まれる。引き抜こうとすれば歯で甘噛みされ引き止められてしまった。笑っているのか息が短く途切れては当たる。
 すでに彼の唇の血色は健康的に薄赤に色づいていた。

「いひひ、ん~?」
「っ!」

 ちゅぽっと指が口から解放された。そのままタローの顔がキスできそうなほど近づいてくる。反射的に目を閉じるが、唇に当たったのは胸板だった。

「いま、なんじ……」

 片目を開けると、彼の顔が淡い光で照らされている。ヘッドボードに手を伸ばしてスマホを取ろうとしただけなことに気づいて、男の鼻先を食まれた指先ではじく。

「いで!あれ?ゆ~ちゃん、なんで人魂化するの~」
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