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真昼の幽霊
第5章 九条家

車の後部座席から移りゆく景色を眺める。
何と言うか雰囲気に飲まれてしまい、そのままタローにくっついて車へ乗り込んでしまった。前を向けば、おそらく彼の父親であろう男が運転している。バックミラーから覗く顔は少しやつれているようにも見えた。
2人は一言も喋らない。もし空気が見えるのならば、酷くひび割れているに違いない。
しばらくしてゆっくりと車が停車する。駐車場の先には黒い人だかりができていた。みな喪服を着ている。やはり葬式会場だ。
「その……」
ようやく運転席の男が口を開くが、その先の言葉は続かない。何か言いたげな父親を無視してタローはさっさと車から降りてしまった。慌てて彼を追いかける。
「……タロー」
そっと呼びかける。タローは力なく揺れる人魂、私をそっと手に取り無言で撫でた。彼だってどうすればいいのか分からないのかもしれない。
「こうたろう兄ちゃん!何持ってるの?」
元気良く駆け寄ってきた少年は明らかにタローの手元を見ている。
まさか、この子も見えるのだろうか。潜るように彼の手の中で縮こまっていると、タローは私をワイシャツの胸ポケットにしまいこむ。どうやら人魂の状態でも彼の一部に触れていれば実体化できるおかげですり抜けなかった。

