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真昼の幽霊
第5章 九条家

彼の鼓動がすぐ傍で聞こえる。あたりは真っ暗だ。
「しー。良太はあっちいきな」
「でも……」
「あー!不幸太郎だ!」
「あら……やだ。ごめんなさいねぇ」
横からタローの名前をいじって揶揄するような別の少年らしき声が響いている。こちらから顔は見えないが、咎める女の声も笑っているような気がした。それに子供の声はいっこうに止まない。
「……」
タローは言い返さない。ただ黙って私が隠れている胸元を撫でているようだ。何だかムカムカしてきたので、ポケットから飛び出し人型になる。
「「あ」」
良太とか言う少年とタローの声が重なる。構わずからかう子供の前へ泳ぎしゃがむと眼前に手を合わす。
「くらえ」
パン!とまるで頬にビンタを食らわせたような音が大きく鳴り響いた。子供は反射的に己の顔を片腕でガードしている。
「な、なに。今の音」
何もない場所かつ自分たちのすぐ目の前で聞こえてきた謎の音に、子供もその隣にいる母親の顔も引きつっている。してやったと立ち上がってふんぞり返った。
「やっぱり、本当に亡霊の……」
そう呟いた女は子供の手を引っ張り、そそくさと人だかりの中へ消えてしまった。
「ゆーちゃん」
「お姉ちゃん」
我に返って振り返ると口を押さえて声なく笑っているタローと目を丸くした少年がこちらを見ている。
「えーと、キミも……見えるひと?」
今度はタローが私と少年の手を引っ張り、駐車場の隅へと向かっていった。

