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真昼の幽霊
第5章 九条家

九条家やタローについてもっと聞きたかったが、タイミングを逃してしまった。
その代わり、最近見てるドラマやら、たわいもない会話に花が咲く。物知りで少し背伸びした良太の話は面白かった。
「さっき兄ちゃん悪く言った奴ら、あのドラマみたいにやっつけられたらいいのに」
「私もそのドラマ見ようかな~」
「ねぇ。お姉ちゃん、僕んチ来ない?」
「……タローと同じこと言うね」
「え?僕、兄ちゃんと似てる?」
どっかの誰かさんの台詞が懐かしい。兄弟揃って何だか思考が似ている気がする。でも『似ているか』嬉しそうに聞き返す良太が少し不思議だった。
「ダメだよ。俺と一緒に帰る」
静かに開かれた扉。噂をすればというやつだ。気だるそうに黒いネクタイを緩めながらタローが入ってきた。
「兄ちゃん!父さんにも教えてないのにココ」
「コレ。お前のキッズ携帯だし。それにもう俺の役目は終わったから交代」
タローがスマホの画面を見せる。そこには地図のような画像に赤い点が点滅している。見守りGPS機能で感知したみたいだ。
「あーぁ。残念だけど返してあげる。また遊ぼうよ!兄ちゃんも一緒にさ」
「ヤダ」
「えー!!ケチ!」
「ほら。お姉ちゃんも呆れて笑ってるよ」
「ゆーちゃん……」
私の顔を見たタローが眉毛を八の字にして困ったように笑っている。
兄弟。家族。今の私には遠い記憶すらない。
その微笑ましくも幼稚な喧嘩をみていると取り残された様な気持ちになるのだ。
「帰ろう」
雨粒のように、ぽつりと落とされた彼の呟きは、私の中にじんわりと染みていく。軽くお別れの挨拶をした後は、タローに手を引かれながら会場を後にした。

