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雨夜の灯(あまよのあかり)ー再会から始まる恋
第7章 「ほんとうの声」

環の部屋に差し込む夕陽は、柔らかくオレンジ色だった。
その光の中で、澪はひとり椅子に座っていた。
小さなラグの上には、例の子犬――名前は「ハル」と呼ばれていた――が、丸まって眠っている。
窓際のソファには、環が腰かけていた。
コーヒーの香りが静かに空間を満たしている。
澪の視線は、ハルの背中に落ちていた。
「昔のこと……話すね」
その言葉は、掠れた音のように空気に混じった。
けれど、環はすぐに顔を上げ、まっすぐ澪を見た。
「ありがとう」
その一言に、澪は少しだけ眉を寄せてから、また視線を落とした。
「わたし……学校が、地獄だった。
朝が来るのが怖くて、寝るのも怖かった。
夢の中でも、あの教室にいて……」
唇がわなないた。けれど、言葉を止めたくなかった。止めたら、もう二度と口にできない気がした。
「なんで、あなたがいたのか、って……何度も思った。
あんなふうに笑って、何も言わないで。
わたしのこと、見てたくせに……」
空気がひときわ重く沈んだ。
環は何も言わなかった。ただ、ぎゅっと手を握っていた。
その指の節が、白くなるほどに。
「……ごめん」
静かな声だった。
ほんとうに静かで、少し震えていて、息を吐くような音だった。
その光の中で、澪はひとり椅子に座っていた。
小さなラグの上には、例の子犬――名前は「ハル」と呼ばれていた――が、丸まって眠っている。
窓際のソファには、環が腰かけていた。
コーヒーの香りが静かに空間を満たしている。
澪の視線は、ハルの背中に落ちていた。
「昔のこと……話すね」
その言葉は、掠れた音のように空気に混じった。
けれど、環はすぐに顔を上げ、まっすぐ澪を見た。
「ありがとう」
その一言に、澪は少しだけ眉を寄せてから、また視線を落とした。
「わたし……学校が、地獄だった。
朝が来るのが怖くて、寝るのも怖かった。
夢の中でも、あの教室にいて……」
唇がわなないた。けれど、言葉を止めたくなかった。止めたら、もう二度と口にできない気がした。
「なんで、あなたがいたのか、って……何度も思った。
あんなふうに笑って、何も言わないで。
わたしのこと、見てたくせに……」
空気がひときわ重く沈んだ。
環は何も言わなかった。ただ、ぎゅっと手を握っていた。
その指の節が、白くなるほどに。
「……ごめん」
静かな声だった。
ほんとうに静かで、少し震えていて、息を吐くような音だった。

