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雨夜の灯(あまよのあかり)ー再会から始まる恋
第9章 「過去の続きに咲く花」

小さな花が、踏まれたアスファルトの隙間から顔を出していた。
名もない雑草かもしれないその花を、澪はしゃがみ込んで見つめていた。
黒いフードの影からこぼれる横顔は、どこか穏やかだった。
その表情を、環はそっと背後から見守っていた。
「あなたと、こうして並んで歩く日が来るなんて、思ってなかった」
澪がつぶやいた。
声は、もう掠れていなかった。息を吐くような細さではあるけれど、それは確かに“生きた声”だった。
「わたしも、だよ」
環は隣にしゃがみ、澪と同じ目線でその小さな花を見た。
そして静かに手を伸ばし、澪の手の甲に指先を重ねた。
「澪の声、好きだな。ちゃんと心の奥から届いてくる」
澪は俯いたまま、けれど逃げることなく、指先のぬくもりを受け入れた。
「わたしね、もう逃げたくないの。
あなたに抱きしめられたとき、初めて“生きてる”って思えた。
それって、罪でも間違いでもないよね?」
環は何も言わず、そっと頷いた。
その沈黙は、否定でも肯定でもなく、ただ寄り添う音だった。
「だから……もう少し、あなたと一緒にいてもいいかな?」
言葉にした瞬間、澪の頬が赤く染まった。
けれど、彼女の視線はもううつむいていなかった。
まっすぐ、環の瞳を見つめていた。
環の目に、光が揺れた。
彼女は唇を噛むように笑って、それから澪の肩を優しく抱いた。
「ずっと、いて」
その言葉は、まるで誓いのようだった。
ふたりは並んで立ち上がり、歩き出す。
もう隠れるようにフードを被る必要はなかった。
風が、ふたりの髪をやわらかく揺らす。
過去の続きに咲いたその小さな花が、春の気配を告げているようだった。
名もない雑草かもしれないその花を、澪はしゃがみ込んで見つめていた。
黒いフードの影からこぼれる横顔は、どこか穏やかだった。
その表情を、環はそっと背後から見守っていた。
「あなたと、こうして並んで歩く日が来るなんて、思ってなかった」
澪がつぶやいた。
声は、もう掠れていなかった。息を吐くような細さではあるけれど、それは確かに“生きた声”だった。
「わたしも、だよ」
環は隣にしゃがみ、澪と同じ目線でその小さな花を見た。
そして静かに手を伸ばし、澪の手の甲に指先を重ねた。
「澪の声、好きだな。ちゃんと心の奥から届いてくる」
澪は俯いたまま、けれど逃げることなく、指先のぬくもりを受け入れた。
「わたしね、もう逃げたくないの。
あなたに抱きしめられたとき、初めて“生きてる”って思えた。
それって、罪でも間違いでもないよね?」
環は何も言わず、そっと頷いた。
その沈黙は、否定でも肯定でもなく、ただ寄り添う音だった。
「だから……もう少し、あなたと一緒にいてもいいかな?」
言葉にした瞬間、澪の頬が赤く染まった。
けれど、彼女の視線はもううつむいていなかった。
まっすぐ、環の瞳を見つめていた。
環の目に、光が揺れた。
彼女は唇を噛むように笑って、それから澪の肩を優しく抱いた。
「ずっと、いて」
その言葉は、まるで誓いのようだった。
ふたりは並んで立ち上がり、歩き出す。
もう隠れるようにフードを被る必要はなかった。
風が、ふたりの髪をやわらかく揺らす。
過去の続きに咲いたその小さな花が、春の気配を告げているようだった。

